毎週土曜日の午後、『ボヌール・ドゥ・マンジェ』では、食空間演出講座が開かれる。講座がある日、ルイは受講生に付きっきりになり、店は放置状態になってしまう。
そのため、たまたまレンタルビデオ店のアルバイトが休みだった良太は、要請を受けて朝から出勤していた。といっても良太の役目は、主に配達の受け取りと電話番という気楽なものだ。
アルバイトを始めて一週間のうちに、良太はここがどういった店かを徐々に知るようになっていた。
『ボヌール・ドゥ・マンジェ』では、パーティーなどの食空間演出の他に、今日のような講座も定期的に催されている。テーマごとに、最適な食空間演出の方法をレクチャーしているようだ。
ちなみに一コースにつき講習は四回と決まっており、お値段もなかなかのものだった。
講座は毎回希望者続出のため、抽選によって決まるらしい。ルイのセンスある講習が評判を呼んでいるのもあるが、類まれなる美丈夫に会いたいがために申し込んでいる女性も多数いるのでは、と良太は勘ぐっている。
また、『ボヌール・ドゥ・マンジェ』では洋食器の販売や修理も行っていた。販売数は多くはないが、ルイが年に数度イギリスやフランスで買い付けてくる特選品ばかりで、心待ちにしている常連客もいるという。
それに加え、インターネットでも販売しているというから驚きだ。この三年よくひとりで業務をこなしてきたなと、良太は感心してしまった。
「いらっしゃいませ。沙也加様、お待ちしておりました」
「ルイさん、お久しぶり。今日のドレス、いかがかしら?」
ドアから姿を現した黒髪巻き髪ヘアーの美人が、ルイの前でくるりと一回転してみせる。胸もとからレオパード柄のインナーをちらりと覗かせた、ベージュのシフォンドレス。短めのスカートからは、スラリと長い足が伸びている。
「素敵ですよ。沙也加様は、何を着てもお似合いですね」
「そう? ありがとう」