「これは……」
明朝の『ボヌール・ドゥ・マンジェ』。
ルイから手渡されたA4用紙を、良太は奇妙な汗を掻きながら二度読みしていた。
「しろたんのお世話方法です。桐ケ谷からのメールをプリントアウトしてまとめました。二枚目には詳しい散歩のし方、三枚目には掃除のし方が書かれています」
「……店長さんって、あの行方知れずの店長さんですよね」
「そうです」
行方知れずと聞いていただけに、深刻な事態をイメージしていたが、メールの文面から察するに彼はおそらく元気だ。
二枚目と三枚目は、顔文字もりもりでさらにウザめのテンションだった。うん、きっとめちゃくちゃ元気だ。
「では、さっそくゲージの掃除をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「かしこまりました……!」
勢いよく返事をしたあとで、良太は思い直してルイに視線を戻した。
地下にある店内は、朝であろうと薄暗い。橙色のテーブルスタンドの光が、カウンターで書類に目を通しているルイの端正な横顔を、艶っぽく照らしていた。
「何か?」
良太の視線に気づいたルイが顔を上げる。昼夜問わず神秘さを潜めたアーモンドアイに見つめられると、男であることを知りながらも、ほんのり顔面温度が上がってしまう。
「その、前から気になっていたんですけど……。もしかして、店長さんってルイさんのお父さんなんですか?」
ルイは、祖母に『桐ケ谷ルイ』と名乗っていた。そして行方知れずの店長のことも、『桐ケ谷』と呼ぶ。ありふれている苗字ではないので、親子と考えるのが妥当だろう。
「ええ、そうです。桐ケ谷は、私の父です」
なんてことだ。
店とペットのチンチラを息子に押し付けて、ある日忽然と姿を消した父。
しかも、謝罪の気配が全くないあのメールの文面。
「すごいですね、ルイさん。お父さんのこと、恨んでないんですか?」
「恨む? まさか」
しみじみと言う良太を見て、ルイは驚きの表情を浮かべる。