ルイは立ち上がり、ゲージを開ける。

ルイが「ギュウ―」と唸りを上げるふわふわボディーを手に乗せ、かがんで絨毯に放てば、しろたんはちょこちょこと走って良太の足もとにすり寄った。
胸に抱けば、「キュー」と甘えた声が返ってくる。

 やっぱりかわいい。

この子に毎日会えるなら、バイトがふたつになることなど苦じゃないだろう。

 しろたんの温もりを胸に感じながら、良太がそんなことを思っていると、ルイがまるで心を読んだかのように美麗な微笑みとともに付け足した。

「仕事内容は、主にしろたんのお世話になります。餌やりに、ゲージの掃除といったところでしょうか。それから、店の掃除やグラス類の洗浄もお願いしたいと考えています。時間は良太君のペースで、空いたときにいつ来ていただいてもけっこうです。お給料は、そうですね……」

 ルイの口から、一カ月の予定給金を耳にした良太は、目を丸くした。

 これだけ貰えれば、生活はかなり楽になる。使い道は未定だが、貯金だってできるだろう。

 そのうえ、いつ来てもいいという夢のような条件。おまけに毎回しろたんに癒されるなんて最高だ。これ以上の副職など、一生見つけられないかもしれない。

それに何よりも――この店で働けば、ルイが作り出す食空間をより間近で見ることができる。

『美味しかったわ』と言った祖母の笑顔が脳裏に蘇り、良太の心が震えた。

「お、お願いします……!」

「承知しました」

 興奮のあまり良太が手を差し出せば、ルイがその手を優しく握った。

 気持ちが昂っているあまりベトベトの良太の掌と違い、ルイの肌の感触は上質な絹のようにサラサラしている。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 ダークグレーの瞳が、細められる。

 同じ京成線沿いに住み、同じ空気を吸っているとは思えない美丈夫の笑顔に心奪われながら、良太もぎこちなく笑顔を返した。