よほど口に合わなかったのだろう。

気味が悪いくらいに礼儀正しい彼が、珍しくお礼も感想も言おうとしない。

美男と、焦げた甘い卵焼き。どう考えてもミスマッチだ。

「じゃ、僕はこれで……」
「ちょっと待ってください」
 
逃げようとした背中に、声が投げかけられた。

 振り返れば、シャンデリアの真下にルイが品よく立っている。

「先ほど、お金に余裕がないとおっしゃっていましたね。よろしければ、こちらで働きませんか?」

 思いがけない言葉に、良太はきょとんとした。

「三年前、店長の桐ケ谷がいなくなって以降、この店は私ひとりでは手が回らないことがありまして。手を貸していただけたら、こちらとしてはありがたいのですが」

「え? 店長さんって、いなくなったんですか?」

 ルイが、本当はこの店の店長でないことは、以前聞いていたので知っていた。

この間の祖母とのやりとりから察するに、店長は祖父が存命の頃はいたようだから、入院でもしているのかと勝手に想像していた。

それがまさか、そんな事態になっていたなんて。

「八神様が最後に来店されてから、すぐのことでした。旅行に出かけたきり、桐ケ谷はいくら待っても帰って来ませんでした」

「警察には行ったんですか?」

「もちろん連絡しました。ですが足取りは掴めず、そのうち私は、デスクに残された八神様へのメモと私への書置きを見つけました。『息災でいるから、心配するな。店のことは任す』と。それからしばらくして、しろたんのお世話方法が書かれたメールが、私のもとに届いたのです」

「……つまり、店長さんは無事ってことですか?」

「はい。行方はわからないままですが、まれにメールが届くので、元気ではいるようです」

会ったことがないながらも、良太はホッと胸を撫でおろす。

 ルイが、店長を名乗らない事情も呑み込めた。

「でも……どうして僕なんですか? こんなオシャレな店、バイトなんていくらでも見つかりそうだけど」

「しろたんが、あなたを見つけたからですよ」

 堂々と、ルイは言い切った。

「桐ケ谷は、しろたんのことを心底かわいがっていました。桐ケ谷の愛娘である彼女の直感を、私は信じます」

「はあ……」