テーブルの上には、波打つようなブルーのラインで淵が彩られた、リチャード・ジノリのディナー皿。

皿の上には、三角をふたつ重ねるように折り込まれたナプキンが置かれ、右隣にはナイフとスプーン、左隣にはフォークがずらりと並んでいる。

右上にはさまざまな形のグラス、左上には同じオリエントエクスプレス・シリーズのパン皿が据えられていた。

これから唯一無二の特別なディナーがはじまる。
そんな期待を、まばゆいばかりの光沢を放つ食器たちが盛り立てる。

――うまく、いくかもしれない。

期待に満ちた祖母の表情からそう感じた良太は、あらかじめ用意しておいた料理の最終仕上げをするために厨房へと急いだ。

前菜から順に、トレイに乗せて別室に運ぶ。

ルイは良太から受け取ったそれを、祖母のもとへと順々に給仕していった。

「前菜(オードブル)は、春野菜とチーズのテリーヌでございます」

「まあ、かわいらしいわね」

 テリーヌは、キャベツ、ズッキーニ、トマト、人参をミキサーにかけた春野菜と、ペースト状のチーズで作った。

本来は色とりどりのカット野菜が見た目を華やかにするものらしいが、ミキサー食でそれは難しい。

その代わり、それぞれのペーストを地層のように重ね、おしゃれに仕上げている。すべてが、ルイのレシピメモに書いてあった通りだ。

 続いて、じゃがいものヴィシソワーズ。基本の作り方は同じだが、味を損なわない程度にとろみ粉を加え、嚥下に困難を抱える祖母でも飲みくだしやすいようにしてある。

「魚料理(ポワソン)は、鯛のポワレになります」

「いい匂い……!」

 鯛のポワレは、ミキサーにかけた白身を、もう一度魚の形に形成した。ポワレは、中身をふんわり、外側をカリッと焼き上げるフランスの調理法だ。

カリッと感を出すために、外側だけをほんの少しバーナーで焙っている。食べやすいよう、ホワイトソースにもとろみを加えた。
 
メインの牛フィレ肉のステーキは、ミキサーにかけた牛肉を、魚料理と同じくステーキの形に作り直した。

ゆるめのミートローフのような食感で、噛み砕くことなく味わえる。とろみ入りの赤ワインソースが、牛肉のうま味を出すのに一役買っている。

 デザートは洋梨のジュレだ。ジュレはほぼ手を加えることなく、祖母でも問題なく飲み下せた。