良太は、晩年の祖父と祖母の様子を、かいつまんでルイに説明した。

今更嫌な過去を思い出させて、生い先短いであろう祖母に気苦労をかけたくないと。

年月を経て底なし沼のように深まったふたりの溝は、もうそっとしておくべきだと。

 必死に抗議する良太を、ルイは静かに見つめていた。

濁りのないダークグレーの瞳は、人形の目(ドールアイ)を連想させる。無機質なようにも、奥底に熱情を秘めているようにも見える目だ。

「良太君」
 
これ以上反論を思いつかなくなった頃、ルイが口を開いた。

「君が私に依頼したのは、おばあさまの食事を美味しくする演出です。おばあさまが食事を美味しくいただくには、何がベストかを最優先に考えましょう」

 それはつまり、祖母が嫌なことを思い出そうが関係ないということだろうか。

「それはそうですけど、でも……」

「私は、オリエント急行の食堂車での食事の再現が、ベストな演出と判断しました。どうか信じてください」

 有名絵画顔負けの美笑で言い切られ、良太はそれ以上何も言えなくなる。美しさには、弱い者を抑え込む力があるらしい。

良太は自身の人間としての質が、目の前の美丈夫に圧倒的に劣ることを思い知らされたのだった。