あたふたと言い訳を考える良太に対し、目の前の美丈夫は、軽い齟齬にも一切の動揺を見せなかった。
「ええ。良太君は、あまり自分のことを話したがらないので。聞く機会を逃してしまったようです。ところで奥様、こちらにご入居されたのは、どなたかのご紹介ですか?」
「ふふ、主人は三年前に亡くなっているから、もう奥様ではないのよ。ここにはね、息子の薦めで入ったの。とても素晴らしいところよ。どこもかしこもきれいだし、職員さんもいい方ばかりだわ」
スルスルと、ルイと祖母は会話を交わしていく。
女性であれば誰もが振り返るような美男が、うっとりするような語り口で絶妙な受け答えをしたら、たとえ初対面であろうと会話は弾むらしい。
平凡なうえに口下手な良太には、うらやましい限りだ。
ルイと祖母の会話は、日常のことから、祖母の昔話にまで範囲を広げていく。出会ってものの三十分ほどで、まるで旧知の仲のように、ふたりは親しげになっていた。
「そうそう、新婚旅行は、ヨーロッパだったんです。そうだ、良ちゃん。そこの棚から、アルバムを取ってくれない?」
完全に蚊帳の外にいた良太の存在を、祖母はようやく思い出してくれたようだ。良太は、指示通り棚の開き戸から藍色をしたベロア地のアルバムを手渡す。
「これ?」
「そうそう、ありがとう」
どうやら、新婚旅行のアルバムのようだ。
「まずはロンドンを巡ったの。バッキンガム宮殿に、ビッグ・ベン、大英博物館……いろいろなところに行ったわ」
黄ばんだページに保存された写真をひとつひとつ指差しながら、祖母は昔を懐かしむように語った。モノクロの写真の中では、若かりし日の祖母が、幸せそうに微笑んでいる。
「わ、ばあちゃん、めちゃくちゃ若い」
「そりゃそうよ、まだ二十四歳だったんだから」
初めて見る写真に良太が驚きの声を上げると、祖母ははにかむように笑った。良太のいない時代の、良太の知らない祖母は、まだ少女のようなあどけなさを顔に残している。
「この方が、ご主人ですか?」
スーツ姿の男性が、黄金に輝くヴィクトリア女王記念碑の前で直立している写真にが現れたとき、ルイが祖母に聞いた。
七三分けにした細面には、たしかに三年前に亡くなった祖父の面影がある。
「ええ、そう。主人です」
「ええ。良太君は、あまり自分のことを話したがらないので。聞く機会を逃してしまったようです。ところで奥様、こちらにご入居されたのは、どなたかのご紹介ですか?」
「ふふ、主人は三年前に亡くなっているから、もう奥様ではないのよ。ここにはね、息子の薦めで入ったの。とても素晴らしいところよ。どこもかしこもきれいだし、職員さんもいい方ばかりだわ」
スルスルと、ルイと祖母は会話を交わしていく。
女性であれば誰もが振り返るような美男が、うっとりするような語り口で絶妙な受け答えをしたら、たとえ初対面であろうと会話は弾むらしい。
平凡なうえに口下手な良太には、うらやましい限りだ。
ルイと祖母の会話は、日常のことから、祖母の昔話にまで範囲を広げていく。出会ってものの三十分ほどで、まるで旧知の仲のように、ふたりは親しげになっていた。
「そうそう、新婚旅行は、ヨーロッパだったんです。そうだ、良ちゃん。そこの棚から、アルバムを取ってくれない?」
完全に蚊帳の外にいた良太の存在を、祖母はようやく思い出してくれたようだ。良太は、指示通り棚の開き戸から藍色をしたベロア地のアルバムを手渡す。
「これ?」
「そうそう、ありがとう」
どうやら、新婚旅行のアルバムのようだ。
「まずはロンドンを巡ったの。バッキンガム宮殿に、ビッグ・ベン、大英博物館……いろいろなところに行ったわ」
黄ばんだページに保存された写真をひとつひとつ指差しながら、祖母は昔を懐かしむように語った。モノクロの写真の中では、若かりし日の祖母が、幸せそうに微笑んでいる。
「わ、ばあちゃん、めちゃくちゃ若い」
「そりゃそうよ、まだ二十四歳だったんだから」
初めて見る写真に良太が驚きの声を上げると、祖母ははにかむように笑った。良太のいない時代の、良太の知らない祖母は、まだ少女のようなあどけなさを顔に残している。
「この方が、ご主人ですか?」
スーツ姿の男性が、黄金に輝くヴィクトリア女王記念碑の前で直立している写真にが現れたとき、ルイが祖母に聞いた。
七三分けにした細面には、たしかに三年前に亡くなった祖父の面影がある。
「ええ、そう。主人です」