成田から上野までを結ぶ京成線は、千葉県人の貴重な交通網だ。
千葉県人を都内に運んだあとは、終点の上野まで、高砂、青砥、日暮里と、情緒溢れる駅が続く。
都内を走りながらも、東京にも新宿にも渋谷にも直結しておらず、若者が集う駅を見守るように、旧き良き趣を残した街並みを通り抜けていく。
そんな他の路線からはどこか一線を画した京成線に、モデルも顔負けの美男が乗り込めば、皆の視線を集めるのは仕方ないことだった。
今日はタキシード姿ではなく、ワイシャツにグレーのズボンというラフなスーツスタイルだが、それがまた絶妙にルイの美しさを引き立てていた。
並んで立っていた良太が、下車する頃には一生分の人の視線を浴びた気分になっていたほどに。
「まあ、良ちゃんのお友達?」
居室にルイを連れて行けば、祖母は驚きながらも喜んでいた。いつもより、気持ち声が高い。
さりげなく手でヘアスタイルを直したのも、良太は見逃さなかった。美男は、年齢問わず女性に活力を与えるものらしい。
よく女の子たちがイケメン俳優を見ながら『目の保養』などと言っているが、あながち嘘でもないのかもしれない。
「この間言っていた、近所のお店の人だよ」
「はじめまして。桐ケ谷ルイと申します」
まるで執事のように、丁寧にお辞儀をするルイ。
彼に食空間演出を依頼していることは、祖母には秘密にしておくつもりだった。ルイが言うには、食事のことを意識させることなく、ありのままの祖母を知ることが大事らしい。
つまり今のルイは、良太と仲が良すぎて祖母にまで会いに来た友人、といったちょっと奇妙な立ち位置にいる。
「あらまあ、素敵な方ね。私は、八神薫子と申します。孫と懇意にしていただいてありがとう」
「八神様……?」
ルイの動きが止まった。顎先に手をあてがい、何かを思い起こすように黙り込む。
「ひょっとして、千葉市内にある八神病院とご関係がおありですか?」
「ええ。八神病院の医院長は、私の息子です。つまりこの子の父親よ。あら? 良ちゃんから聞いていない?」
さっそく粗が出てしまったようだ。ルイに良太は自分の苗字を伝えていなかったし、八神病院の息子であることなど知らせる予定もなかった。
実家の家業はともかく、友人であれば苗字くらいは知っていないと不自然だろう。
「えーと……」
千葉県人を都内に運んだあとは、終点の上野まで、高砂、青砥、日暮里と、情緒溢れる駅が続く。
都内を走りながらも、東京にも新宿にも渋谷にも直結しておらず、若者が集う駅を見守るように、旧き良き趣を残した街並みを通り抜けていく。
そんな他の路線からはどこか一線を画した京成線に、モデルも顔負けの美男が乗り込めば、皆の視線を集めるのは仕方ないことだった。
今日はタキシード姿ではなく、ワイシャツにグレーのズボンというラフなスーツスタイルだが、それがまた絶妙にルイの美しさを引き立てていた。
並んで立っていた良太が、下車する頃には一生分の人の視線を浴びた気分になっていたほどに。
「まあ、良ちゃんのお友達?」
居室にルイを連れて行けば、祖母は驚きながらも喜んでいた。いつもより、気持ち声が高い。
さりげなく手でヘアスタイルを直したのも、良太は見逃さなかった。美男は、年齢問わず女性に活力を与えるものらしい。
よく女の子たちがイケメン俳優を見ながら『目の保養』などと言っているが、あながち嘘でもないのかもしれない。
「この間言っていた、近所のお店の人だよ」
「はじめまして。桐ケ谷ルイと申します」
まるで執事のように、丁寧にお辞儀をするルイ。
彼に食空間演出を依頼していることは、祖母には秘密にしておくつもりだった。ルイが言うには、食事のことを意識させることなく、ありのままの祖母を知ることが大事らしい。
つまり今のルイは、良太と仲が良すぎて祖母にまで会いに来た友人、といったちょっと奇妙な立ち位置にいる。
「あらまあ、素敵な方ね。私は、八神薫子と申します。孫と懇意にしていただいてありがとう」
「八神様……?」
ルイの動きが止まった。顎先に手をあてがい、何かを思い起こすように黙り込む。
「ひょっとして、千葉市内にある八神病院とご関係がおありですか?」
「ええ。八神病院の医院長は、私の息子です。つまりこの子の父親よ。あら? 良ちゃんから聞いていない?」
さっそく粗が出てしまったようだ。ルイに良太は自分の苗字を伝えていなかったし、八神病院の息子であることなど知らせる予定もなかった。
実家の家業はともかく、友人であれば苗字くらいは知っていないと不自然だろう。
「えーと……」