「はい。卵焼きを食べれば分かります。作り手に、料理人の本当の資質があるかどうかは」

 正直、良太にはルイが何を言っているのか分からなかった。

 ルイの理想の料理人の判断基準は漠然としていて、良太には理解しがたい。

もはや、芸術評価の域に達している。

 ルイが、テーブルの上に置いていた“ブランチの紅茶”をひと口飲んだ。

良太は気づいた。

ルイがいつも温めた“ブランチの紅茶”を客に出すのは、紅茶を淹れるのが苦手だからかもしれない。

不味いものを出して、桐ケ谷氏が築き上げた『ボヌール・ドゥ・マンジェ』の評価を下げたくないのだろう。

考えてみれば、このお店で出されるお菓子も、全てどこかで購入したものばかりだ。手作りは、一度も見たことがない。