桐ケ谷氏がいなくなったあと、ルイは懸命に奮闘したのだろう。
自分に料理は作れないから、食空間演出という別の形で店を続けた。
ニッチなジャンルに特化しているのには、そんな理由があったらしい。
これはこれでいいような気がするが、ルイの中の桐ケ谷氏からレストランを譲りけたという意識が、そうはさせないのだろう。
「ていうか料理人の条件って、どういうのなんですか? 超早業で何品も作るとか、めちゃくちゃすごい料理学校を出ていないといけないとかですか?」
世の中には、レストランが溢れている。
料理人など、いくらでも見つかるような気がする。
「いいえ、そういうことではございません。――卵焼きです」
「……たまご、やき?」
意外な返事に、良太は声を裏返らせた。
「フランス料理店で、卵焼きですか?」
ダークグレーの瞳が、射抜くようにこちらに向けられる。