「フランス料理のシェフである桐ケ谷の養子となった私は、当然レストランの後継ぎとして、料理を教えられました。けれども料理のセンスがゼロに等しく、何年たっても上達しませんでした」

 厨房の方を見つめながら、物憂げに語るルイ。

「どんなに頑張っても、寝る間を惜しんで努力しても、無理でした」

 耳にしたことがないルイの切なげな声に、良太は胸の奥をぶるりと震わせた。

――どんなに頑張っても、寝る間を惜しんで努力しても。

 良太も、同じだったからだ。

家族の期待に応えようと、懸命に勉強した。けれどもまるでトンネルを通過する電車のように、学習した内容は頭をすり抜けて脳内に留まってはくれなかった。

「だから、今のこのお店は料理をお出しすることができないのです」

「……料理人を雇おうとは思わなかったのですか?」

「もちろん、考えました。けれども、思うような料理を作れる料理人は見つかりませんでした」

「そんなことって、あるんですか……?」

「あるのですよ。恩人である桐ケ谷が私にたくした、大事な店です。私にはこの店を、彼がいたとき以上にしなければならない義務があります。生半可な料理人には、任せたくないのです」

 よほど、料理人の選り好みが激しいのだろう。

ルイは桐ケ谷氏を神のごとく崇拝しているから、絶対に妥協したくないのかもしれない。

「つまり今のこの店は、料理人が見つかるまでの仮の状態といったところでしょうか」

「仮の状態、だったんですね」