六月半ば。

梅雨入り前だというのに澄んだ青空が頭上に広がるその日、良太は昼前に『ボヌール・ドゥ・マンジェ』に向かっていた。

今日は仕事だと思っていたが、シフトを確認すると勘違いだったため、ルイには来ることを事前に知らせてはいない。

 けれども、そもそもいつ来てもいいという条件だったため、別に大丈夫だろう。

 ビターチョコレートの扉を開け、階段を降り店の入り口に来てみれば“CLOSED”の札が掛かっていた。

とはいえ、一応従業員である良太は、気に留めずにドアを開けた。
 深紅の絨毯に、火を灯したバースデーケーキのようなシャンデリア。オフホワイトのテーブルクロスの掛かったテーブル。淡い輝きを放つ、高価そうな洋食器の数々。

 見馴れた景色の中に、ひとつだけ見馴れない情景があった。