陽菜にとって安らぎを得ることができる、心から『美味しい』と思える食空間は、家族の揃っている食卓なのだ。

 だから、陽菜は“家族”の象徴である大きなお弁当箱に憧れていた。

それは、自分が失ったものだから。

 娘の切ない気持ちを汲んでか、由美の顔が歪んだ。けれども、彼女は頑なだった。

ひとりで子供を育てる決意をした気丈な人だ、そうやすやすと気持ちは揺るがない。

「ごめんね、陽菜。でも、もうママは……」

 パパのこと、信用できないのよ。

 消え入りそうな、小さな声がした。

悲痛な声は、過去にどれほど彼女が傷ついたかを物語っている。

 俊哉が表情をこわばらせ、下を向いた。

 消えない。

 どんなにあがこうと、過去に犯した過ちは、決して消えない。

 人を裏切るということは、それだけ罪深いことなのだ。