知らなかった。

他人に認められると、こんなにも心が満たされるのか。

しっかり者の兄たちと比べられてばかりで、劣等感の塊みたいになっていた良太にとっては、初めての感覚だった。

いや、本当は前々から、料理が自分にもたらす効果には勘づいていた。

けれども、劣等感の壁に埋もれて、そのことに気づけないでいた。

気づかせてくれたのは、他でもない、ルイだ。

彼が良太に料理を作るよう促さなければ、良太は一生、この満ち足りた気持ちに顔を背け続けて生きていたかもしれない。

「うまいな……」

 ぼそっと声がした。

 由美に遠慮してか、しばらくの間お弁当に箸をつけないでいた俊哉の声だった。

 今の状況を再認識したのか、由美の雰囲気が再び凍り付く。

 それを察知した俊哉が、慌てて箸を置こうとした。けれども寸手のところで、無邪気な声が俊哉を止める。

「パパ、卵焼き食べてみて。すっごくおいしいから」

「……ああ」

 ためらいつつも、俊哉が卵焼きに箸を伸ばす。そして、ひと口ぱくりと食べた。

「……うまい」 

「でしょ?」

 嬉しそうな陽菜に対し、元夫婦は互いを意識してぎこちない。

 同じお弁当を囲み、黙々と食べる三人。奇妙な空気が辺りに満ちていた。

「運動会のときのお弁当みたい。幼稚園のときの……」

 ふと、陽菜がそんなことを言った。

由美と俊哉が各々箸を止め、ほぼ同時に顔をあげる。