ルイに椅子を引いて促され、陽菜が緊張した顔でちょこんと座った。

「良太君、用意をお願いいたします」

「はっ、はい……!」

 すっかり家族問題の傍観者となっていた良太は、我に返り、個室を離れ厨房に向かった。

そして数時間前から用意していたそれを手に取り、再び個室に顔を出す。

「あっ、お弁当!」

 陽菜が大きな声で叫んだ。

 良太が手にしていたのは、ルイの思い出の品である、三段重ねの漆の重箱だった。

「どうぞ」

 三人のちょうど中央に、良太は重箱を置いた。割りばしと箸置きは、良太がいないうちにルイが配ってくれたようだ。

「“家族で食べるお弁当”です」

 どぎまぎしながら言えば、「……開けていいの?」と陽菜が遠慮がちに聞いてきた。

「うん、いいよ」

 椅子から立ち、陽菜が一番上の蓋を開ける。
「うわぁ~」

 つい先ほどまで両親の喧嘩に縮こまっていたとは思えない、明るい声だった。