木製の扉を開ければ、店内と同じ深紅の絨毯の上に、四人掛けのダイニングセットが一組ぽつんと置かれていた。

クリーム色の壁には、ろうそくを灯した燭台のようなランプが二ヶ所だけ取りつけられている。

 おそらく、こちらがこの部屋の本来の内装なのだろう。いかなるお客様の要望にも応えられるよう、わざと簡素にしているのかもしれない。

「………!」

 個室に足を踏み入れるなり、由美が体の動きを止めた。

 その視線の先には、ダイニングチェアのひとつに腰かける男性の姿があった。

 ルイが先日アポイントメントをとって、ここに呼んだ人物だ。

「どうしてあなたがこんなところに……」

「パパ!」

 陽菜が、彼のもとに駆け寄った。がっしりとした腕に絡みつく彼女の頭を、反対の手でよしよしと撫でている彼は、良太が見馴れた服を着ている。

 グレーボーダーのポロシャツ。早乙女食器店からの宅配便を請け負っている、運送会社の制服だ。

下校中の陽菜に近づいていたのも彼だったのだが、そのときは運送会社のキャップを被っていなかったこともあり、良太はいつもの配達人だとは気づかなかった。

『ボヌール・ドゥ・マンジェ』のある三丁目の配達担当で、由美の元夫である彼の名前は、俊哉といった。

「由美、申し訳ない。俺が、陽菜にご飯ををあげていたんだ。夕食前だということも考えずに」

 立ち上がり、俊哉が由美に深々と頭を下げる。

巨大な壺をやすやすと運べる筋肉質な体格に、日焼けした顔。どことなく陽菜の面影がある黒目がちの瞳に、短めのツーブロックヘア。