「いいえ。陽菜様の食欲が戻って、嬉しい限りです。ただ、お母様の言葉に納得いかないところがございまして」

「納得いかないところ、ですか?」

「お母様は『一人にさせていたことが、あの子の精神的苦痛になっていた』とおっしゃいましたが、私はそうは思わないのです」

 それからルイは、テーブルに広げられたままの重箱に視線を移した。

「陽菜様の心の中に、寂しい気持ちはまだ残っています。だから、寂しさが消えて、食欲が戻ったわけではないと思うのです」 

 確かに、幼稚園の運動会のお弁当のことを語る陽菜は寂しげだった。 

 ひょっとすると、陽菜が幼稚園の頃由美はまだ離婚をしていなくて、運動会には父親も来ていたのではないだろうか。

父親のいなくなってしまった寂しさは、ルイの言うように、学校帰りにここで過ごすくらいでは拭えないだろう。

――じゃあ、どうして陽菜ちゃんの食べムラは治ったんだ……?

 いくら頭を捻ってみても、良太にその答えは分からなかった。