「ランチボックスがたくさんあるから勘違いされたのですね。残念ながら、当店はお弁当屋さんではございません。今しがた沙也加様からランチボックスの相談を受けて、いくつかお薦めしていたのですよ」

 テーブルの上にある入れ物類は、お弁当箱だったらしい。端には、ランチクロスらしき布が幾枚か重なっている。

 間仕切りの多いプラスチックのもの、ホーロータイプのもの、蓋だけ木製のもの、ステンレス製のもの、ドーム型のもの。どれも、良太が見たことのないようなおしゃれなものばかりだ。

「ランチボックスの相談ですか?」

 この世にそんな悩み事が存在するのかと、良太は驚く。

「ええ。結婚前の女性たるもの、ランチタイムも気を抜いてはいけないと思うの。どこで、どんないいおと……いえ、誰が見てるかわからないでしょ? 私が作るお弁当にマッチしたランチボックス選びも大事だと思って、ルイさんに相談していたのよ」

 言葉を詰まらせながらも、沙也加が上品に言った。

「それで、どれにするか決めたんですか?」

「ええ。この、プラスチックのものにするわ。シンプルでオシャレですもの。ランチクロスは、そうね。ルイさんが薦めてくださった、ラベンダー色のリバティ柄にしようかしら。そうだ、陽菜ちゃんはどのお弁当箱が一番好き?」

 レオパード柄のネイルが光る指先で、沙也加がずらりと並んだお弁当箱を指し示す。男を値踏みするときの声色とは相反する優しい口調から察するに、意外にも子供が好きなようだ。

「えーと……」

 陽菜は、ずらりと並んだランチボックスを前に、うーんと唸りながら真剣に考え始めた。悩み過ぎるあまり、どんどん眉が寄っていく。

やがて陽菜はもとの顔に戻ると、ゆるゆると首を振った。

「この中にはないです。もっと大きいのがいいの」

 そうは言っても、ルイが用意した沙也加用のランチボックスは、女性であれば標準サイズだ。小学三年生の陽菜にしてみても、ちょうどいいか少し大きいくらいだろう。

「これより大きいもの? 食べ過ぎて太ったら、いい男捕まえられないわよ」

「沙也加さん!」

「どれくらいの大きさのお弁当箱が好きなのですか?」

 ルイの優しい問いかけに、陽菜は恥ずかしそうに目を瞬かせた。

「運動会のときに持って行くお弁当箱くらいの……」