店内に入れば、カウンター前のいつもの席に沙也加が座っていた。

 入れ物のようなものを並べたテーブルを挟んで、向かいにはルイがいる。どうやら、何らかの相談中のようだ。

良太を見るなり、沙也加が待ってましたといわんばかりに色っぽく微笑んだ。

「こんにちは、良太君。あら、そちらのお嬢さんは?」

「――良太君、どうかしましたか?」

 良太のただならぬ形相に気づいたのだろう。ルイが、深刻な顔で聞いてくる。

 良太は、先ほどの出来事をルイに話した。

グレーのボーダー服の怪しい男が陽菜のうしろをつけて、話しかけようとしたこと。陽菜の様子から察するに、初めてではないようだということ。

「……それは、心配ですね」

 黙り込んでいる陽菜の顔を見ながら、ルイが言う。良太はルイの隣に、陽菜は沙也加の隣に腰かけていた。

「良太君が、毎日学校まで迎えに行ってあげたら?」

 一緒に話を聞いていた沙也加が口を挟んだ。

「でも、僕今日みたいに五時上がりの日ばかりじゃないんですよ。もっと遅くなることだってザラですし、毎日迎えに行くのは難しいです」

「じゃあ、ルイさんが行けばいいじゃない。近所だし」

「それもそうですね」

 沙也加の提案に、ルイが頷いた。

「ルイさんいいんですか?」

「ええ。夕方少し抜けるぐらい、なんの問題もございません。それよりも、地域の子供の身が危険にさらされている方が耐えがたいです。陽菜様、それでいいですか?」

「え……っ? いい、けど……」

 陽菜の顔が、みるみる真っ赤になる。

「“陽菜様”なんて、お姫様になったみたい……」

「ふふ。ルイさんに毎日迎えに来てもらうなんて最高じゃない」

 そんな陽菜を見て、沙也加がニヤニヤしている。

「良太君。あとで、由美様にこのことをお伝えしましょう」

「そうですね。ルイさん、ありがとう」

 ルイが行ってくれるのであれば、安心だ。陽菜の身を案じていた良太は、ホッと息を吐く。

すると、陽菜がおずおずと顔を上げ、不思議そうな顔をした。

「あの……、ここはお弁当屋さんなのですか……?」

 一同が、きょとんとする。『ボヌール・ドゥ・マンジェ』は、どう見ても弁当屋の装いではない。

 ルイが、陽菜に向けてにっこり微笑んだ。