「ほんと? お願いしていい?」

「はい、任せてください」

 良太は、自身満々の笑みで由美の依頼を請け負った。


 五時三十分。

今日は、昨日より少し早めに『ボヌール・ドゥ・マンジェ』前の踏切に差し掛かった。

遮断機が上がるのを待って線路を渡ると、茶色い縦長の洋館の向こうに、ローズピンクのランドセルを背負った陽菜らしきシルエットが見えた。

 陽菜の通う小学校は、『ボヌール・ドゥ・マンジェ』の前を真っすぐ行き、良太の住むボロアパートをさらに超えた先にある。

こちらから迎えに行ってあげようと、良太は店で立ち止まらずそのまま進んだ。

 そのときだった。

陽菜の背後から、グレーのボーダー服を着た男性が足早に近づいてくる。

そして、うつむき加減に歩く陽菜に急接近した。横をすり抜ける様子もなく、男はランドセルの背中にぴたりと寄った。

手を伸ばせば、容易に陽菜に触れられる距離だ。

男の気配に気づいたのか、陽菜が後ろを振り返る。

男が、口を動かした。

「陽菜ちゃん!」

 胸騒ぎがして、良太はできる限り大声で叫んだ。