「うわ~、かわいい~!」
真っ白なしろたんの体をふかふかと抱いて、陽菜が顔いっぱいの笑みを見せた。
「ふわふわ~、おもちみたい~」
気持ちよさそうに目を瞑り、陽菜の細い腕の中に身をゆだねているしろたんも、ちゃんと自分の役割を分かっているようだ。
「陽菜ちゃん、抱っこ上手だね! しろたんがすごくリラックスしてる。ルイさんなんて三年も……」
「三年も、なんでしょうか?」
貴公子のような優美な微笑とは裏腹に、ルイの目が笑っていない。
――やばい、ルイさんが嫉妬してる。
良太は、慌てて口をつぐんだ。ルイは、相変わらずしろたんにだけは手を焼いている。
ルイが抱けば必ず「ギュウ―」と威嚇の声を出すしろたんが、初めて会った少女に大人しく抱かれているところを見れば、当然面白くもないだろう。
ことに桐ケ谷氏を崇拝しているルイは、桐ケ谷氏の忘れ形見的な存在であるしろたんを特別視していた。
桐ケ谷氏に認められるがごとく、しろたんに懐かれることに密かに重きを置いている。そのことに、良太はこの一カ月でうすうす勘づき始めていた。
「ここは、レストランではないの?」
由美の方はといえば、先ほどから不思議そうに辺りをきょろきょろと見回している。
彼女も玄関をくぐる際、『当店では、料理は提供いたしてしておりません』の貼り紙を目にしたのだろう。