「だんだん、綺麗になってきてるってことですか?」

 古いものが年月を経て劣化したというならともかく、美しく変化したとはどういうことだろう?

首を捻っている良太に、ルイは詳しく説明してくれた。

「漆というものは、年月を経れば得るほど、使えば使うほど、風合いが出て美しく変化していくものなのですよ」

「へえ。そんなものが世の中にあるんですね」

 人も物も、年月とともに汚れくたびれ、美しさからは遠ざかっていくものだと思っていた。万物の定めに逆行するものも、世の中には存在するらしい。

「そういえば、ルイさん。最近、桐ケ谷さんから連絡はありましたか?」

「いいえ。ここのところはございません」

「どこにいるんでしょうね……」

アルバイトを始めて二ヶ月、良太には徐々に分かってきたことがある。桐ケ谷氏が行方知れずになる前まで、『ボヌール・ドゥ・マンジェ』はフランス料理店だった。

 ところがシェフである桐ケ谷氏がいなくなり、この店はレストランとして経営を続けることが難しくなってしまった。

その代わりルイは、得意の食空間演出を活かし、専門店として『ボヌール・ドゥ・マンジェ』を生まれ変わらせたのだ。 

「桐ケ谷は少々変わっている人間ですので、私には想像もできないような思惑があるのかもしれません」

「変わってるって、店の中でチンチラを飼うところとかですか?」

「それもありますし、私のような見ず知らずの人間を、会ったその日に養子にしてしまうところもですかね」