楓にとって、家令としての使命を全うすることは、ごくごく自然のことなのだ。

 それ以外の選択肢など、彼の心に存在すらしない。

 ――ルイが、そうでありたかったように。

「お前は、これからどうするんだ?」

 切れ長の瞳が、見透かすような色を浮かべる。

「桐ケ谷様は、戻ってくる兆しがないんだろう?」

「代わりを探してる」

「代わりね。今のままでもいいような気はするけどな。雄三様は、お前のセンスを買っている。他のお客様だってそうなんだろう?」

「まあな。だが、今の『ボヌール・ドゥ・マンジェ』は、本当の『ボヌール・ドゥ・マンジェ』じゃない」

「そういうものか」

 全ての食器を下膳し終えた楓が、ワゴンを脇に置き、くるりとこちらに向きなおる。

革靴のつま先からカフスの整い方まで、微塵の落ち度もない。

獅子倉氏にとってかけがえのない家令へと成長した彼を、ルイは改めて羨ましいと思った。

「案外、目星がついているんじゃないか。その代わりとやらが」

 ルイの耳もとに囁きかけると、楓は音もなく横をすり抜ける。

皺ひとつないタキシードの背中が、鳩血色(ピジョン・ブレッド)の廊下へと消えて行った。