“秘密”。

綾乃の相沢に対する想いを暗喩しているようで、良太の背筋がぞくりと震えた。

「この葡萄葉模様のティーカップが初めて作られたのは二百年以上前になりますが、実は現在でも製造が続いています」

 ルイが、その場にいる面々を順に見渡す。

「実は、マイセンマークの描き方は、年代によって少しずつ異なっています。先日こちらのコレクションを調べさせてもらった際、双剣の下に“Ⅱ”のマークを確認しました。“Ⅰ”や“Ⅱ”のマークは、1815年から1830年ころにかけて描かれていたものです」

 ルイの視線が、棚のカップへと移動する。

「ところが割れたカップの裏に、“Ⅱ”のマークはありませんでした。1934年以降は、双剣のみのシンプルなマークに統一されています。ですから、割れたカップが偽物だということが分かったのです」

 ルイの解説に、「たしかに」と獅子倉氏が同調した。

「マイセンマークの変遷については、わしも知っている。あのときは動揺のあまり、マークの確認など思いつきもしなかったが」

「すり替えた人は、綾乃さんの計画を見破って、あらかじめよく似たマイセンカップを用意していたということですか? そんなことができる人、いるんですか?」