一番動揺していたのは、他でもない綾乃自身だった。

「おじいさまがこの部屋の鍵を応接室のキャビネットにしまっていたのを知っていたから……昨日こっそり開けて、持ち出したんです。誰の目にも止まらぬよう、パーティー直前にすり替えるつもりで……」

 奇想天外な出来事に恐怖を覚えたのか、綾乃が自身の華奢な体を抱くように両手で腕をさすった。

「簡単なことです」

 ルイが一歩前に出て、年代物のマイセンカップに目を侍らせた。

「誰かがあなたの行動を予想してよく似たカップを用意し、あなたがすり替えた本物ともう一度すり替え、こちらに戻したのでしょう」

「そんな……」

 信じられない、というように、綾乃が声を震わせた。

「マイセンの食器には、手描きでこのような形の双剣のマークが描かれています」

ルイが、両手の人差し指を交差させ、歪な“×”のような形を皆に示した。

「このマークの意味を、ご存知ですか?」

「“秘密”だ。マイセン社は、苦労の末編み出した白磁器の製造工程を独占するため、秘密を頑なに守り続けた」

 獅子倉氏が答えると、「さすがですね」とルイが微笑んだ。