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「……まさか、相沢か?」
獅子倉氏の声が、テラスルームに重く響いた。
怒涛の展開に、良太も動揺していた。自分のような部外者がこの場にいてはいけないような気がして、助けを求めるように隣のルイを見上げる。
ルイは落ち着き払った顔で、真っすぐ相沢を見つめていた。
いつも涼やかな顔をしているは男であるが、普段以上に平然とした、それが当たり前であるかのような表情だ。
やはりルイには、この事件の真相がある程度予想できていたのだろう。
「相沢も、綾乃が好きなのか?」
綾乃は慌ててかぶりを振った。瞳には、うっすら涙が滲んでいる。
「とんでもございません……! 私の一方的な片思いです」
「そうなのか? 相沢」
獅子倉氏の試すような声に、相沢はわずかに顔を上げた。能面のように表情のない顔からは、何ひとつ読み取れない。
「お答えいたしかねます」
「どういうことだ?」
獅子倉氏の声が凄んだ。
「以前も……」
遠い目をして、綾乃が切々と語り出す。
「以前も、想いを伝えたことはありました。高校生の頃でした。けれども、同じお返事をいただきました」
「……そんなに前からなのか?」
獅子倉氏の声に、動揺が入り混じる。孫娘が家令に想いを寄せているなど、露ほども想像していなかったことなのだろう。
「もっと前からです。彼がこの屋敷に来た頃、それこそ、私がまだ小学生の頃から想い続けていました。ずっと傍で、彼だけを見てきました」
つまり、綾乃は誰にも悟られぬよう想いをひた隠しにし、長年相沢を想い続けた。ルイに負けず劣らずの美男だ。
そんな男が思春期の少女の傍に寄り添い、いつ何時でも速やかに要望を叶えてくれれば、恋に落ちるのも仕方ないだろう。