「ええ、おそらくは。ただし、その方はこの中にはいらっしゃいません。今の時点ではただの推測に過ぎませんので、確固たる証言が欲しいのです」

 ルイがにっこりと妖艶に微笑めば、こんなときなのに、女性たちは一人残らず頬を染めた。

張り詰めた糸が解けるように、場の空気が和んでいく。

自分が疑われているわけではないと知り、女性たちが安堵の息を吐いたのだろう。

 一番若い女性が、おずおずと手を挙げた。

「……ごめんなさい、私です。おふたりの席を変えるお手伝いをいたしました」

「そうですか。どなたに頼まれたのですか?」

「綾乃お嬢様に頼まれました。真ん中の方が、いろいろな方とお話ができるからとおっしゃられていました」

「なるほど、分かりました。ありがとうございます。もう仕事に戻ってくださって大丈夫です」

 三人の女性と相沢が扉向こうに立ち去る音を耳にしながら、良太は頭の中で必死に考えを巡らせていた。

 ルイは先ほど、綾乃と敬太郎の席を変えた人物は、マイセンカップをすり替えたことを、獅子倉氏に気づかせないようにするのが狙いだったと良太に話した。

 そして、その人物とは綾乃本人のことだった。

 つまり綾乃は意図的に獅子倉氏の怒りを買い、自らの手で自分の晴れやかな婚約発表の場を台無しにしたということになる。

「ルイさん、これってどういうことなんでしょう……?」

 困惑した表情でルイを見上げれば、ルイは良太の心の惑いを読み取ったかのように頷いた。ルイには、もう全てがお見通しのようだ。

「すぐに分かりますよ。良太君、ひとまず綾乃様を探しましょう」