「いいえ。味覚は、『美味しさ』を決める最終的な感覚に過ぎません。そこに至るまでの感覚の方が、実は大事なのです。特に視覚は、『美味しさ』を決める大部分を担っています」

老朽化した六畳間の、二千円で買ったローテーブルでいつもご飯を食べている良太には、理解しがたい理論だった。

食器にしろ、百均で買ったどこにでもあるシンプルなのものを使っている。それも、大皿、小皿、茶碗、どんぶりしか持っていない。

けれども、この店がどういうところなのかはおぼろげに理解した。要は、食事をする空間が、おしゃれでセンスよくなるようアドバイスする店なのだろう。

そんなニッチな店がこの世に存在するとは、今までは想像もしていなかったけれど。

「なんとなく、分かった気がはします……」
「それは光栄です」

ルイは、変わらず優雅な笑みを絶やさない。
その後少しだけルイと話をしてから、ご馳走になったお礼を述べて、良太は店をあとにした。