生まれて初めて訪れたこの場所は、まるで異国だった。
輝く白磁の食器、キャンドルのゆらめき、絶え間ない客の笑顔。
ただ、そんなことは俺にとってはどうでもよかった。
食事は、飢えを満たすだけのものだから。
家は、雨風をしのぐためだけのものだから。
家族だって同じだ。
自分以外の人間は、所詮他人に過ぎない。
だけど、あの人が焼いてくれた卵焼きは、あったかくて、ふんわりしていて、とろけるように甘くて。
生まれて初めて感じた『美味しい』という気持ちに、涙が溢れて止まらなくなった。
あのときの感動を、俺は一生忘れないだろう。
ああいうものを、作れる人になりたかった。
だから、俺なりに懸命にやってきた。
だけど現実は残酷だった。
努力は報われる、なんて言葉は所詮きれいごとだ。
――そして俺は、人生の迷子になってしまった。