それに気が付いたとき、私は無意識にベッドの上に放置したままにしていたスマートフォンを手に取っていた。そしてある人の連絡先を開く。そのまま右手の親指で画面下にあるキーボードをタップし、用件を伝えるメッセージを作成する。
送信相手は、柊斗。
《突然ごめんなさい。明日、どこかの時間帯で会えないかな?ちょっと聞いてもらいたいことがあって》
メッセージを送信してから間もなくして、向こうからも返事がきた。
《明日は一日空いてるからいつでも大丈夫。いつも凪に来てもらってばかりだから、明日は俺がそっちに行くよ》
それは、了承を告げる内容。無理だと言われたらどうしようかと考えていたから、とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
柊斗に会おうと話を持ちかけたのには、もちろん理由があった。
……それは、お母さんやお父さん、蓮、私を取り巻く家族のこと。
私はずっと、小学五年生に体験したクラスメイトとの出来事が自分の性格に関係しているのだとばかり思っていた。でも、それだけではなかったのだと気付いた。
これからも、家族とは長く付き合っていくことになるだろう。だからこそ、私は心の奥底に秘められていた小さなわだかまりを解きたい。このまま向き合わないままじゃ、いつかそれは大きく膨れ上がり爆発してしまいかねない。
……家族のために、そして、自分がもう一つ殻を破り、この夏、もう一歩大きく成長するために。次に両親と蓮のお見舞いに行く時に、私が今まで抱えてきた思いの全てを伝えよう、と、そう決めた。
そして私の我儘かもしれないけれど、その決意を、ずっとそばで見守ってくれていた柊斗に聞いてほしい。頑張れと、強く背中を押してほしい。そうすればきっと、私は逃げずにお母さんたちときちんと向き合える気がするから。
それから何度か柊斗とやり取りを繰り返して、明日は十三時に塾の目の前にある小さな公園へ集合することになった。
寝る前にはお母さんから病院受診の結果も届き、蓮はお母さんや私の予想通り、風邪からの肺炎を起こしかけていたらしい。いつものように数日は入院し、点滴や内服による治療をするそうだ。
また、蓮の入院している病院は家族の付き添いは自由なのだけれど、今日はお母さんも一緒に泊まって蓮のそばに付いていると連絡がきた。
私はそれに《了解》と返事をすると、歯磨き等の洗面だけ終わらせ、そそくさとベッドに潜り込む。そして心の中で蓮に頑張れとエールを送りながら、目を閉じる。
……恐らくお見舞いは、明日。お父さんが仕事から帰ってきたタイミングで行くことになるだろう。
そのことを考えれば考えるほど、心臓が飛び出してくるのではないかというくらいの緊張に襲われる。……まだ、前日なのになあ。そう思い、自分でも苦笑してしまうほど。
けれどこのまま眠れなくて、明日の体調に支障が出るのはもっと困る。というのも、蓮の入院する小児科病棟は、感染予防のために面会者にも細かく健康チェックが実施されていて、体調の優れない人は病棟に入れてもらえないこともあるからだ。
そのこともあり、私は大人しく目をつむり、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。そうしているうちにグッスリと眠りに落ちていたみたいで、気付いた時にはカーテンの隙間から覗く窓の外はもう明るく、私は翌朝を迎えていた。