あの日のことを思い出せば、あまりにも無力な自分に苛立ってしまい、情けなさからも顔を俯けてしまう。
スカートの裾をきつく握りしめた私は、目の前にあるミルクティー一点を見つめながら、悠真くんが何かを発するのを待っていた。
「……凪ちゃんさ」
ようやく口を開いた悠真くんだけれど、何を言われるのか全く見当がつかず、その言葉の続きにじいっと耳をすます。
「多分、柊斗のこと好きなんだろ?」
「え……?」
数秒後に聞こえた、悠真くんの台詞。けれど一瞬彼が何を口にしたのか理解できなくて、私は俯けていた顔を勢いよく上げた。
そしてもう一度、悠真くんが先程言ったことをひとつひとつ丁寧に噛み砕く。
柊斗のことが、好き…?私が…?
「な、なんで……」
意味が理解できた時、私の心は動揺に包まれていた。それは恐らく身体にも現れていて、顔が燃えるように熱い。
悠真くんはそんな私を見ると、にいっと真っ白な歯を覗かせ、悪戯に笑った。
「凪ちゃん、分かりやすいから」
「私、そんなに……?実は、あかりにも気付かれてて……」
「おう。だってさ、柊斗と一緒にいる時、凪ちゃんすっごいいい顔してるぜ?」
「……やめてよ、恥ずかしい」
悠真くんから思ってもいなかったことを指摘され、恥ずかしさにいたたまれなくなる。
激しく揺れ動く心をどうにか落ち着けようとミルクティーを口にするけれど、それでも心は穏やかには戻ってくれなくて。バクバクと響く鼓動がうるさい。
「いつから、気付いてたの?」
ちらりと悠真くんに視線を向けた私に、彼は言う。
「確信はなかったけど、結構前からかな。恋なのか友情なのかは分からないけど、でも凪ちゃんが柊斗を見る目は特別だなあとは思ってた」
「……悠真くん、すごいね」
「ははっ、さっきも言ったじゃん。凪ちゃん、とっても分かりやすいから」
再び繰り返され、また羞恥心がじわじわと込み上がってくる。
自分では好意を隠していつも通りに接しているつもりだったけれど、悠真くんやあかりに気付かれているようじゃ、もしかすると柊斗にも勘付かれているのかもしれない。そう思うと、余計に恥ずかしさが私を襲う。
「でも、そこがいい」
唇をきゅ、と結び、耐えていると、ふと悠真くんのそんな声が聞こえた。私は聞き間違いかと思い、「え?」と聞き返す。
目の前にいる悠真くんは、とても優しい表情で私を見つめていた。
「凪ちゃん、前までは自分のことはあまり話さず、常に俺たちの下に立つように接してたでしょ?初めて出会った時、思ったんだ。この子、自分の意見を押し出すのが苦手なんだろうなって」
「……そうだね。確かに苦手だった」
「でも最近、たくさん凪ちゃんの方から話してくれるから、俺、すごく嬉しいんだ。凪ちゃんの柔らかい笑顔を見ると、とっても素直だなあと思う。特に、柊斗に関しては。ただそれを上手く言葉にできなくて、空回りしてしまうだけで。だけど、凪ちゃんはそこがいい」
「……それは、どういう意味か聞いてもいい?」
「つまり、そのままの凪ちゃんでいいってこと」
悠真くんは微笑みを保ったまま、言葉を繋げようと口を開く。