柊斗のお母さんと妹さんと対面した翌日。

今日は土曜日の昼下がり。

昨夜柊斗からメッセージが届いていて、その内容は《今日もお疲れさま。帰りは急に母さんと日菜が来たからびっくりさせたね、ごめん》という謝罪の文章だった。それに対して、気にしていないということを伝えたら、柊斗からはありがとうと返ってくる。

それからは特にお母さんのことに触れるわけでもなく会話が進み、最後は私からの《おやすみ》という文言で終わっていた。

「……はあ」

自室のベッドに寝転んでいた私は、木漏れ日を浴びながら昨日ことを考えるばかり。

あの帰り際に見た柊斗の表情が、脳裏にこびりついて消えてはくれない。

……柊斗は昨日、何を考えていたのだろう。

仰向けに寝転んだまま、大きく溜め息をこぼし、私は近くにあったスマートフォンを手に取る。

始まったのは、心理の攻防戦。柊斗に連絡をするべきか、やめておくべきか。

私に話すことで柊斗の気持ちが楽になるなら、柊斗のことを助けてあげたいと思う。でも、考えてしまうんだ。こう思うこと自体が迷惑だったとしたら、私は柊斗の心にさらに深い傷を負わせてしまうんじゃないかって。

私はそっとまぶたを伏せる。冷房から送られてくる風が少しだけ冷たくて、タオルケットを思わず顎上まで手繰り寄せた。

……思い出していたのは、私が柊斗に全てを打ち明けた日。

『凪に元気になって欲しくて、笑顔になってほしくて、ここに呼び出した』

柊斗は、どうしたらいいのか分からなくなっていた私を海に誘い、そう言ってくれた。

『嫌だったら、無理にとは言わない。だけどもし俺に話すことで凪の心が少しでも楽になるなら、俺は凪の話を聞きたい』

優しい言葉をかけながら、微笑んでくれた。

……そうだ。

そこまで思い出し、私はあることに気付く。自分がその時、とても嬉しいと感じていたことに。

〝助けたい〟〝少しでも役に立ちたい〟という、私が今柊斗に抱いている気持ちを、柊斗もきっと私に対して持っていた。

そしてその気持ちを受けた私は、迷惑なんて思ってはいない。ただ、嬉しかった。私のことを気にしてくれている人がいるんだなあ、こんな風に手を差し伸べてくれる人がいるんだなあ、と。

……そう、私は柊斗の思いに、救われたのだ。

それに気付いた瞬間、私は反射的に柊斗の連絡先を開いていた。

《柊斗、明日、どこかで会えないかな。またあの堤防から、海を見たくなっちゃった》

そんな誘い文句を作り、メッセージを送る。