もう一度、自分の心を落ち着けるように小さく息を吐く私。

「私、小学生の頃ね、自分の正しいと思った意見を言ったことで、軽い悪口を叩かれたことがあったの」

話し始めたのは、昨日柊斗にも話した過去の記憶。柊斗に言われた通り、少しずつ彼女に過去を明らかにしていく。

このことが原因で、自分の意見を発言するのが苦手になったこと。言いたいことを少し我慢して周りに合わせて笑っていれば、曖昧にその場をやり過ごせることに気付いたこと。中学に入ってからは意見を求められる機会が増えたけれど、それに答えられなかった時の圧力が怖くて、余計に自分の言いたいことが言えなくなったこと。

一つ一つを丁寧に噛み砕きながら、言葉にした。なるべく分かりやすく、彼女に伝わるように。

「怖かったんだ。また、あの時みたいに誰かに敵に回されるような発言を自分がしてしまうのが」

あかりの顔を見る勇気がなくて、視線を地面に落としていた私。

でも、次から話す言葉は、ちゃんとあかりに聞いてほしい。その一心で、私は彼女の顔をゆっくりと見上げた。

「でもね、私は出会ったの。あかりに」

柔らかい口調で、はっきりと。彼女の名前を口にしたら、あかりは伏せていた目を上げる。

その瞬間、交わる二人の視線。木陰に座る私たちの間を、優しい風がふわりと通り抜けた。

「あかりは、他の人とは違った。何も言わない私のことを蔑ろにするわけでもなく、かといって意見を強引に求めるのでもなく。私がどうやったら話してくれるのか、たくさん考えてくれてたよね。話しやすい雰囲気を作ってくれたり、私が話せそうな話題を振ってくれたり。そんなあかりといると、心が暖かくて。少しだけ、心を開くことができた気がしたんだ」
「……凪」
「でも、やっぱり不安や恐怖は拭えなかった。あかりには友達がたくさんいるのに、その中でどうして私なんだろう。私といても、あかりに迷惑をかけるだけなんじゃないか。……考えれば考えるほどね、怖くなるんだ。いつかあかりに、凪はいらないって突き放されちゃうんじゃないかなあって。……その結果が、先週。あかりのことを怒らせる結果になっちゃったんだけど」

苦笑い気味に言った私に、あかりは何も言ってはくれない。複雑そうな表情を見せるあかりは、今その心で何を考えているのだろう。

……数秒、いや、数分にも思えるほど重い沈黙の後、あかりが閉ざしていた口を開いた。

「……凪は、私のこと嫌い?」
「え?」

思いもしなかった事を聞かれ、それ故に動揺してしまう。……あかりのこと、私が嫌いだって?いいや、そんなこと。

「嫌いなわけない」

これだけは、はっきり言える。

たとえあかりに申し訳なさを抱いていようと、私はあかりのことが嫌いなわけがない。むしろ、その逆だ。

……私は、彼女のことが。いつも私に優しい言葉をかけてくれる、自分ではたどり着けない場所に手を取って導いてくれる、そんなあかりが、大好きなのだから。