公園に辿り着いたのは、待ち合わせの十分前。そう広くはない公園。数十メートル先にあるベンチに、会いたかった彼女の姿を見つけた。まだ親子連れなど、公園を利用している者はいない。……私たち、二人だけだ。

あかりは私に気付いていないのだろう、木陰に設置されたベンチに座ったまま、青空を真っ直ぐに見上げている。その横顔は、どこか複雑そうで、深く何かを思い詰めているようにもみえる。

「……あかり」

意を決して近付きながらあかりの名前を呼ぶと、彼女はハッと肩を揺らしてすぐにこちらを向いた。

「ごめんね、待たせちゃったね。もう少し、早く来ればよかったかな」

肩を竦め少しだけ笑うと、あかりもそっと微笑んでくれる。でもそれはいつも私に向けてくれていた弾けた笑顔ではなく、切なさのようなものを含んだ表情。

「急に呼び出してごめんね」
「大丈夫だよ、私も暇してたし」
「来てくれてありがとう。……隣、座ってもいい?」
「うん、どうぞ」

不自然になってしまいそうなのを堪えて、平然を装う私。あかりから許可を得て、彼女から少し離れた位置へ腰掛ける。

とりあえず彼女の横にきたものの、どうやって話を始めたらいいのか分からない。今までの私は、こうやって他人とぶつかることを避けてきたから。

しばらく続く沈黙。私の耳に届くのは、夏風を受けてさらさらとそよぐ木の葉の音と、遠くの方で優雅に羽ばたく鳥の音だけ。ちらりと視線を横にやれば、あかりは深く口を閉ざし、地面一点を見つめている。

……このままじゃ、いつまで経っても話が始まらない。

せっかくあかりに来てもらったのに、本音を打ち明けるんだと決意を固めたのに。ここまできてもなお、勇気を出して一歩踏み出したその先の世界を知るのが怖いと思ってしまう。

やっぱり臆病だなあ。

そう思って、自分の情けなさに小さく息を吐こうとした、……けれど。ふいに思い出したのは、昨日柊斗がくれた言葉。

『凪は凪らしくいていいんだよ』

彼が言ってくれたように、私は私のままでいいんだ。

私がずっと抱き続けてきた思いや隠してきた過去、苦悩、それら全てを、ありのままにあかりに伝えればいい。

確かに、怖いけれど。何も自分のことを知ってもらおうとをせず、あかりとの関係が壊れてしまうより、私は自分にできる精一杯を頑張りたい。

「……私ね」

喉の奥から絞り出した第一声は、蚊の鳴くような声だった。それでも、あかりは私の方に目を向けてくれた。