それから瞬く間に時は過ぎ、世間は七月を迎えた。以前に柊斗のお母さんを待ちながら二人で話したあの日から、私は自分を変えたいと思うようになっていた。

柊斗のたった一言が、私に少しだけ火をつけたみたいだ。

まずはあかりや柊斗、悠真くんの前で自分の心を開いていければいいな、と思った私は、みんなの話の流れに合わせて、『私もそれ好きだよ』『こういう映画も気になるな』と言うことから始めた。そしたらあかりたちは笑顔で快く私の発言を受け入れてくれ、それが小さな自信へと変わる。

この一ヶ月は、こうして小さな自信を積み重ねていっている最中というところだろう。

でも必ずしも、その積み重ねがいい方に傾くとは限らない。それを実感する出来事が、昨日起こったのだ。

それは、あかりのふとした一言だった。

『さっきさ、三組の子にお昼ご飯一緒に食べようって誘われたんだよね。まあ、断ったんだけど』

もともと友達は両手で数え切れないほど多いあかり。今までにだって休日に遊びに誘われている場面を見ることはあったし、私と一緒に塾へ通う道中に引き止められてそのままあかりは数分だけ立ち話をするという場面にも多々遭遇した。

だから、他クラスの子にお昼を食べようと声をかけられたのも不思議ではない。私があかりの話の中で気になったのは、誘いを断ったということ。

あかりにはいつも私と一緒にいてもらって申し訳ないと思う気持ちがあったから、他の子から誘われたのならそちらにたまには行ってもらっても構わないと思っていた。

『なんで断ったの?』

何気なく聞こえるように問うと、あかりは私の方をちらりと見て笑う。

『凪と一緒に食べる方が楽しいもん』

そう言うあかりの顔は嘘を言っているようには思えない。でもあかりの発言を素直に喜ぶことができないのはなぜなのだろう。……ううん、本当は分かっていた。

最近の私はあかりに少しずつ思いの表出ができるようになったのだが、その度に思い知らされる。私の僅かな勇気を受け止めてくれる優しさだったり、私が困っている時に手を差し伸べてくれる強さだったり。

今までも当たり前に受けていたはずのそれらが、私自身も少し成長し視野が広がったことにより、以前よりも目につくようになった。

あかりは、とても心優しい人。

だからこそ余計に、あかりは私とずっと一緒にいるのではなく、やっぱり私以外の他の友達といる方がいいのではないかと思ってしまう。ずっと前から感じていた思いが、膨れ上がった瞬間だった。