「塾、間に合ってよかったね。ギリギリセーフってところかな」
「……ごめんね、私がゆうちゃんの誘い、きっぱり断りきれなかったから」
「いいのいいの。間に合ったんだから、結果オーライだよ」
私とあかりはふたりで話しながら塾の廊下を足早に歩き、教室へ向かう。話の流れもあり、ようやくあかりにごめんねと告げることができ、それを聞いたあかりはにこりと笑って人差し指と親指で丸を作った。
塾の開始は十七時半からだが、自分の腕時計に目をやれば、その針は十七時二十五分を指している。本当にギリギリだが、授業には間に合いそうだ。
ホッと胸を撫で下ろし、私は教室のドアを開けた。そして、もうお決まりとなった自分たちの席を目指す。
「あかり、凪ちゃん、学校おつかれ」
そこは、初日と同じ席。もうこの塾へ通うのは初めも合わせるとこれで五回目となる。私たちは毎回、初日と同じように悠真くんたちの後ろの席に座っているのだ。
「ありがとう。悠真と柊斗くんもお疲れさま」
悠真くんの言葉にあかりはそう返すと、椅子を後ろに引いてそこに腰を下ろした。ようやく人見知りが抜けてきた私もやんわりと笑い、あかりの隣に腰かける。
「ねぇ」
前回やってきなさいと言われた問題集を机上に出し、筆箱も同様に置こうと思ったときだった。小さな声で、誰かに話しかけられる。……いや、誰かと言われなくても、私の目の前に座って授業を受ける人は、ひとりしかいないのだけど。
「……柊斗」
「凪とあかりちゃん、今日少し遅かったね。学校が長引いた?」
「うん。……ちょっと、色々あって」
「そっかそっか。何はともあれ、間に合ってよかったね」
私に話しかけてきたのは柊斗だった。柊斗は身体だけひねりこちらへ向けると、心底安心した表情で微笑む。私は小さく頷くと、同じように笑顔を向けた。
それから程なくして今日の授業を進めてくれる先生がやってきた。私たち生徒は先生からの解説を聞きながら、ノートを取っていく。先生の声と、カリカリと鳴るシャーペンの音が混ざるこの教室で、私も懸命に問題に取り組んだ。
「じゃあ、解説はこれで終わり。分からないところがあったら、このあと俺が行くから手をあげてくれ。あとはこれ、県立大学の入試問題だ。今からこれを解いてもらう」
開始から五十分くらいが経とうとした頃、前回の問題の解説が全て終わり、次の問題集を配り始める先生。
手に渡った冊子は、パラパラと見る限り、十ページ程の薄いものだ。これを四十分くらいで解き、残りの三十分で解説。時間内に説明できなかったものについては次回解説するらしい。