初めてあかりと塾に通った日から、はや二週間が経った。四月ももう下旬になり、あと数日もすれば五月がやってくる。
「凪、今日もお疲れだね。でも、これからまた塾かあ」
学校の授業が全て終わった後、教室で机に腰掛けながら今日使用した教科書をスクールバッグへ詰める。そんな私のもとへやってきたのは、もう準備を終えたあかりだ。
「うん、待たせてごめんね。早く準備終わらせるから」
私たちはこれから塾へ向かう予定で、あかりは私を待ってくれている。だから慌てて教科書を詰める手を早めようとすると、あかりはやんわりと笑い、「まだ時間少し余裕あるから、ゆっくりでいいよ」と言ってくれた。
そんなあかりの優しさに、少しだけ心がふっと軽くなる。私はあかりの言葉に甘させてもらい、教科書の端が折れないように丁寧に帰りの作業を進めた。そして、ようやく帰りの準備ができたと思った、その時。
「凪ちゃん」
椅子から立ち上がろうとした私を止めたのは、私のクラスの委員長だった。そばにいたあかりも、不思議そうに委員長の顔を見つめる。
「凪ちゃん、今日日直だったよね?」
「え?……ああ、うん」
「ついさっき、担任の先生から、委員長の私に教室の掃除道具に不備がないかチェックして記入するように言われたんだけどね、……私、今日他の高校の友達と遊ぶ約束しちゃってて。それでね、帰ろうとしてたところ申し訳ないんだけど、凪ちゃん日直だし、代わりにお願いできないかなって……」
そう言って委員長は、申し訳なさそうに眉を下げた。
けれど、私もこれから塾に行かなければならない。ここは断るのが一番の最善策だろう。
……そう、心の中では思っているのに、私の口からは一切断りの文句がでてこない。その沈黙が迷っているように聞こえたのか、委員長がさらに念を押す。
「お願い、凪ちゃん。今日会う友達ね、ずっと前から約束してたの……」
そうは言われても、私にも用事があるのだから困る。ここでお願いを受けてしまえば、私はきっと塾へ遅れてしまう。
でもやっぱり、委員長のお願いをきっぱりと断ることはできなかった。