「……頑張れ、凪」
……ほら、やっぱり。
柊斗は私のことを優しく見守りながらも、いつだって全力で、私のことを応援してくれていた。そんな、暖かい人。
「ありがとう、柊斗」
心の底からお礼を言えば、柊斗は嬉しそうに頷いてくれる。そして私の瞳から目を逸らすと、ゆっくりとまぶたを伏せ、顔を上側へ向けた。
やんわりと頰を緩め、全身で夏風を浴びるように空を仰ぐその横顔は、今何を思っているのだろう。
私も柊斗の真似をするみたいに、上半身をグッと反らして目を閉じる。
何度か大きな深呼吸をしたら、新鮮な空気が身体の中に取り込まれたおかげか、気分が少し澄み切ったものに変わったような気がしたけれど、気のせいだろうか。
一分、二分、いや、三分か。柊斗の隣でしばらくそうしていたら、ふと、私の耳に落ち着いた彼の声が届く。
「じゃあ、俺も決めた」
それはあまりにも唐突で、「え?」と思わず聞き返してしまった。けれど柊斗は表情を一切変えず、前を向いたまま。
……柊斗は一体、何を決めたの?
柊斗が言おうとしていることが全く分からず、私の頭の中は疑問だらけだ。前の言葉に続けて彼の口から飛び出た台詞に、私は目を丸くして驚いた。
「俺も、母さんと日菜と。向き合ってみることにする」
「……え?」
「いや、今日ね、こうして凪の強い決意を聞いて、なんか勇気が湧いてきてさ。俺も負けてられないなあって」
そう言った柊斗は、風に吹かれながら笑う。
「凪のように俺も、きちんと家族と、そして自分と向き合うんだ。母さんと日菜と何の曇りもなく過ごす幸せな時間を、また取り戻したい」
柊斗の真っ直ぐな思いに蘇るのは、日菜ちゃんと二度目に出会った日のこと。
実は、日菜ちゃんとあの日公園で会ったことは、柊斗には告げていない。というのも、日菜ちゃんの方から帰り間際に、『お兄ちゃんには今日のこと、言わないでもらってもいいですか?なんだか恥ずかしいし、お兄ちゃんに心配かけたくないから』と念押しされていたんだ。
だから柊斗は、私と日菜ちゃんが二回も顔を合わせていることを知らないのだけれど。
その日に、『お母さんとお兄ちゃん、三人で過ごす幸せな毎日を取り戻したい』と、日菜ちゃんも柊斗と同じようなことを言っていたなあとふと思い出した。
柊斗と日菜ちゃん。ふたりの思いは同じ。それを知っているからこそ、その願いが叶うようにと私も願わずにはいられない。
「……ねぇ、柊斗」
「ん?」
「約束しない?」
「約束?」
唐突な私の申し出に首を傾げた柊斗。私は小さく頷くと、話の続きを押し出した。