柊斗との待ち合わせ時間までは、まだ三十分以上もある。
私は、辺りをくるりと見渡し、公園内の端に設置されているベンチを視界に捉えた。あそこなら日陰になっているし、あのベンチに腰かけて、柊斗が来るのを気長に待とう。そう考えた私は、すぐにベンチを目指しそこに腰を下ろす。
……あ、そうだ。
ここで私は、忘れかけていたあることに気が付いた。それは、バッグの中に入れっぱなしにされている、おにぎりの存在。そういえば昼食も食べていなかったなあと苦笑しつつ、私はおにぎりを二つ取り出す。
小さな円形に握ったはずのそれらはバッグの中で歪んでしまったのか、楕円形に変わっていて少し歪だ。だから口に入れる前に適当に形を整え、食べることにした。
「……うん、美味しい」
完全に冷えてしまっていたそれは、出来立てのものに比べればもちろん劣るけれど、それでも十分美味しくできている。特に喋ることもなく無言でひたすら頬張っていたからか、あっという間におにぎりを平らげてしまった。
……そろそろ柊斗の来る頃だろうか。そう思って時刻を確認するものの、どうやらさっきからまだ十分そこらしか経っていないようだ。
柊斗との約束の時間までどうやって時間を潰そうかなあ。
スマートフォンには一応暇つぶしになるようなゲームアプリを入れているが、何にせよゲームアプリは充電をすぐに食ってしまう。外出先で充電が減ってしまうのも嫌だし、と、考えついた案はすぐに却下された。
でも、その直後のことだった。
「凪、お待たせ」
聞き慣れた声とともに、優しく笑う柊斗が私の前に現れたのは。
「あ、柊斗」
「ごめん、凪。待ったでしょ?」
「いや、家にいても色んなことをぐるぐる考えちゃうしさ。それならちょっと早めに家を出ようって思っただけだよ。それより、柊斗こそ早くない?」
私はそう言って、スマートフォンを取り出し、現在の時刻を確認する。やっぱり私の思った通りで、今は四十分前。約束の時間より二十分も早い。
どうして、と首を傾げた私を見て、柊斗は駅の方を指差し、目尻をきゅるりと落とした。
「一本早い電車に乗れたから、少し早く来れたんだ」
……ああ、なるほど。それなら柊斗がここにいるのも納得だ。大きくコクン頷いた私に、柊斗が「凪こそ」と言葉を続けた。
「凪こそ、早すぎない?まだ来てないだろうなって思ってたら、凪の姿が見えたんだから。びっくりしたよ」
「だって。さっきも言ったけど、家にいても何も手につかないんだもん。緊張して、色んなこと考えちゃって。あかりにも話は聞いてもらったんだけど、その後は何もすることなかったから」
「……そっか。でも、待たせたことには変わりないし。寒い中ごめんね、凪」
そう言って私の隣に腰かけた柊斗。