その代わりに、私は口を尖らせたまま、小声でつぶやく。
「だって、草壁さんの料理姿見てたら、私もなにか作ってみたいなって思っちゃったんですもん……」
 そう言うと、草壁さんは水やりをしながら、しばらくじっと私を見て固まっていた。
 それから、仕方ないと言うようにキュッと蛇口の捻って水を止める。
「今から鬼の料理教室を開く。食材を買ってここに集合だ」
「お、鬼の……?」
「なんか……お前がもし一生独身だったとき、どう生きていくのか一気に不安になった」
「勝手に私の未来想像して不安にならないでくださいよ⁉︎」
 全力でつっこみなからも、私は草壁さんに言われた通りの食材を買いに向かった。
 ちょっとしたものを作るつもりが、まさかこんな展開になるなんて……。
 完全に仕事モードのスイッチが入った草壁さんを見て、私は震えあがりながら食材をカゴに入れていた。


 食材をなんとか買い終えて、植物レストランの前に着くと、ちょうど葵さんからメッセージが返ってきた。
【えー! そんなおもしろいことやってるなら行く! ていうか僕の家のキッチン使いなよ!】
 仕事を終えたらしい葵さんは、どうやらもうすぐ家に着くようで、私たちに合流したいと言ってきた。
 正直一対一でレッスンを受けるのは怖かったため、葵さんが来てくれると知って安心した。
 そんなこんなで、葵さんの帰りを待ってから、葵さんの部屋へと向かったのだった。
 そして今、私は緊張した面持ちで包丁を握りしめている。
「爽くん、部屋中に物騒な空気醸しだしすぎ」
「花井が怯えてるからだろ」
「草壁さんのオーラが怖くて萎縮してるんですよっ」
 震えながらエプロンを身に着け、私はいよいよ草壁さんの鬼の料理レッスンを受けることとなった。
 葵さんはどう見ても今の様子を楽しんでいる。
 ちなみに今日の葵さんは、女性誌での撮影だったようで、ストレートロングの黒髪のウィッグをつけていて相も変わらず美しい。
 ただの白シャツがなんであんなにおしゃれに見えるのか謎だ……なんて見惚れていると、バチッと葵さんと目が合ってしまった。
「なに? 僕に見惚れちゃった?」
「は、はい……」
「えー、かわいい」
 なんてやりとりをしていると、刺すような視線がキッチンから飛んできたので私は慌てて葵さんから離れた。
 危ない危ない、うっかり目で殺されるところだった……。