――4/23火。午後4時以降、乗り換え駅を出た周辺で待ってる。


 駅周辺か……。

 車やバスが通る道にそって雑居ビルや店が回りにあり、駅周辺はごちゃごちゃしている。人や自転車などもひっきりなしに通り、うまく行けばそれに紛れて気づかれないかもしれないと安易に思っていた。

 だけどこのゲームの始まった当日、結果はあっさりと僕は気づかれて『はいチーズ』と映見はカメラを意識してポーズを取ったのだった。

 まあ一日目だし、最初からうまく行く方が珍しい。それに、まずは楽しそうに笑っている映見の写真を撮ってからの方が後々彼女も気に入ってくれるかもしれない。一枚目はこれでいい。あと残り二十六枚。チャンスはまだまだある。僕はカメラを手にして自分に気合を入れていた。

「透ってさ、やっぱり笑わないね」

 映見はいつの間にか自分のスマートフォンを撮りだして、僕が考え事をしている写真を撮っていた。

「おい、勝手に写真を撮るなよ……」

 と思ったとき、こんな近くで映見が僕に気づかれないで写真を撮ったことに衝撃を受けてしまった。ご丁寧に映見は今撮った僕の画像を見せてくれた。伏目がちにカメラを見つめながら固く決心している自分の姿に呆れてしまう。

「ほら、気づかれずに写真を撮るのって簡単でしょ」

「ただ油断していただけだ。まさか、僕の写真を撮るなんて思ってなかったし、それにスマートフォンを見ているだけにしか見えなかった。僕だってスマートフォンを使えば同じように撮れるさ」

 スマートフォンを取り出し映見に向けてみたが、映見はすでにピースサインを作っていた。

 行き場の失った僕のスマートフォンは、仕方なくパシャリと映見を写した。アップで撮ったその顔は憎らしいながら、かわいく撮れていた。

「分かっていると思うけど、スマホで条件にあった写真を撮れたとしても無効だからね」

「でもなんで、インスタントカメラで写真を撮るんだ?」

 僕はそのカメラを映見に突き出した。映見はそれを優しく見つめる。

「二十七枚撮りって決まっているのと、一度撮ればやり直しがきかないのがいいからよ」

「それにしても変なこと思いつくよな」

「その方が楽しいじゃない。お互い全力でこの二十七日間を過ごすのも面白いでしょ」

「二十七日間を全力で過ごす?」

「そうよ、透は必死に私に攻めて来る。そして私は透が攻めて来るのを阻止する。これは生きるか死ぬかの戦いよ」

 芝居掛かった映見の言い方は彼女にとったら冗談でも、僕には笑えなかった。俯き加減に表情が険しくなる。

「どうしたの?」

「軽々しく生死をちゃかしたくないんだ」

「あっ、ご、ごめん。そういうつもりじゃなかったの。ちょっと大げさになっちゃった。えへ」

 意外にも映見が汐らしくなっている。映見はどこまでもクレイジーに積極的な女の子だと思っていたから少し驚いた。

 少しだけ気まずくなったけど、それは一瞬に終わり、後はそれを払拭するように映見はにこっと微笑んだ。

「今日のところはここまでにしておこう。また後で明日の予定をメールするからチェック忘れないでよ。はっははは」

 意味もなく得意気に笑っているところをみると、また元に戻ったようだ。

「そこ、笑うとこ?」

「うん。だってなんか楽しいんだもん。透が私の写真を気づかずに撮ろうとしてくる。私はそれを阻止しようと常にカメラを見て笑おうとする。いつも笑ってられるって最高じゃない。笑う角には福来たるっていうでしょ。ほら、透も笑ってみたら」

「僕は笑いたくないんだ」

 映見から目を逸らすと、映見はふーと吐息を漏らした。

「やっぱり筋金入りだね。神野君の言う通りだ」

「えっ、神野? なんで神野を知ってるんだ」

「神野君とは前から友達なんだ。それで透の事をいろいろ聞いていたの。だから透に興味をもったんだ」

 どおりでしつこいはずだ。神野が裏で手を引いていた。神野なら僕をからかうためならやりかねない。

「神野君ね、透はとってもいい人だって言ってた」

「だからって、なんで僕に近づくんだよ。神野に頼めばいいじゃないか」

「神野君はあまり印象深くなくて、気がついたら知り合っていたけど、透を見たとき、なんかフィーリングが合っちゃって、ビビッてきたんだ。透にはそんな魅力があった」

「この暗い僕に魅力?」