「その対策に、局長が一役買ったのよ」

さくらはウインクをした。

「ホント、すごかったんだから」

七海ちゃんも言う。

「まぁ、ある意味壮大すぎてて……」

市山くんのため息に、横田さんも同調した。

「俺たちも翻弄されたけどな」

森部局長はその責任感から、常に本体のプログラムを操作していた。

もちろんその行為は、いくら局長といえども個人の勝手な判断で許されることではないし、局長の改ざんした結果発生した無意味なエラーは、監視するAIによって逐一報告され、適切に処理されていた。

メンテナンス作業中なんてロスを生まないための、2重3重に重ねられた複雑な立体構造のプログラムの海を、森部局長は自在に改ざんを重ねる。

長島少年はその局長の改ざんエラーを、ハッキング防止のためのキーコードとして設定した。

「逆転の発想? ていうのかしら。これほど認証キーとして、優秀なものはなかったわよね」

「おかげで、めちゃくちゃ大変でしたけど!」

芹奈さんの言葉に、市山くんがかみつく。

なにせ、改ざんする本人の気分次第で、どこをどう操作するのか分からないし、その選択箇所は支離滅裂で、全く無意味なようにみえて、だけど基本的なところでは間違っていないのだ。

「だって、改ざんした本人ですら軽度な認知症のおかげで」

「どこをどう改ざんするのか予想がつかないし、記憶もしていないんだもの」

七海ちゃんとさくらはため息をついた。

愛菜の行動の監視は、横山さんと芹奈さんが担当し、彼女に自分の行動が監視されていると気づかれないように、さくら、七海、市山チームがフォローに回った。

私と愛菜の行動及び会話は、全て記録されていたのだ。

「なにそれ。長島くんって、変態だったんですか?」

私の問いに、芹奈さんが答える。

「データサンプルの正当性、的確性を証明するために、どんな細かい記録でも、詳細に残せと言われたわ。彼は天才かもしれないけど、かなりのSね」

「やっぱり変態だ」

「そうとも言う」

しかしそれも、ついに彼女の知るところとなった。

彼女は自分の行動が監視され、かつ妨害されていると勘づいた。

「そこからは、本当に凄かったぞ」

「全力で挑んできましたからね」

だけど彼女はたった一人で、こちら側は5人編成のチーム戦で、さらには軽度認知症のやっかいな局長と、長島少年の相手もしなければならない。

「所詮、無理な話だったんですよね」

「長島くんの狙いはね、実はそこにあったのよ」

追い詰められた彼女は、ついに事件を起こす。