「では、僕はこれで失礼します。今日はとても楽しい時間を、どうもありがとうございました」
深く頭を下げるので、びっくりしてこっちも頭を下げる。
彼はにこやかに立ち上がると、引き取りにきた配膳ロボと一緒に出て行ってしまった。
七海ちゃんは、限りなく陶酔に近いため息を漏らす。
「あぁ~ん、やっぱり、なにしても格好いい~」
「普通の男の子じゃない。PP3000の文字に、惑わされてるだけだよ」
私が言ったら、七海ちゃんは急に怒り始めた。
「明穂さんにはね、彼のオーラってものを感じられないんですか?」
「オーラってなによ、目に見えないでしょ」
「目に見えないものほど、大事なんだって習わなかったんですか?」
「うん、習わないよね、普通」
「それだからダメなんです!」
さくらに助けを求めたら、さくらは困ったように笑った。
「さくらは感じる? 彼のオーラ」
「オーラかどうかは分からないけど、会うたびにこの人は、やっぱり普通じゃないな、とは思う」
会うたびって、そんな回数を会ってるとは思えなかったけど、さくらもそう感じているのならば、本当にそうなのかもしれない。
市山くんが、食後のコーヒーをいれた。
「ねぇ、そう言えばあの少年に私が元気ないって、誰が言ったの?」
「人事部とかじゃないんですかね、ほら、最近の明穂さん、PPずっと低迷気味だし」
七海ちゃんの言葉に、ちょっぴりムッとする。
「あぁ、そうかもね、彼はほら、なにせ天才だから、ありとあらゆる方面をカバーしてるし」
さくらの言葉に、市山くんも付け足した。
「そうでしょうね、きっと明穂さんを心配してたんですよ」
三人が声を揃えて笑うから、私は分かったような分からないような、変な気分になる。
「いくらなんでも、そんなことまで気にする?」
扉が開いて、外にランチに出ていた三人が帰ってきた。
休憩所のソファの回りに集まっている私たちを見て、芹奈さんはにっこりと微笑んだ。
「あら、今日はどうしたの? みんなで、ずいぶん楽しそうにしてたのね」
「笑い声が、外にまで聞こえてたぞ」
横田さんがネクタイを緩める。
愛菜は全く気にならない様子で、午後からの仕事の準備を始めていた。
「長島少年が来ていたんですよ」
市山くんの言葉に、愛菜の顔色が変わった。
「あらー、それで一緒にランチしてたの?」
芹奈さんは残りもののポテトをつまむ。
「よかったわね」
「すっごい、かっこよかったですぅ~!」
「だからそれは3000の文字に騙されてるだけで、中身は結構普通の男の子じゃない」
「ホント明穂さんって、分かってないですよねー」
「あぁ、俺の居ない時で俺が助かった」
横田さんは、また枯れ草モードに戻りつつあった。
「あんなのと一緒にメシを食ったって、食べた気にならん」
「あの人と張り合おうとするのが、間違ってると思いますけど」
私がそう言ったら、横田さんは完全にススキモードになった。
「お前は黙ってろ」
愛菜がケタケタと笑って、横田さんはパソコン画面に向かった。
あの枯れススキモードでも、PPが落ちるどころか、2500に近づきつつあることが理解出来ない。
愛菜は芹奈さんに声をかけ、仕事の続きを始めている。
三人は愛菜を真ん中にして背中を並べた。
もうすっかり、定着してしまった光景だ。
もうこの配置が変わることはないのかな。
学校の席替えみないなことを、想像してみる。
市山くんの手がぽんと私の肩にのって、彼は耳元でささやいた。
「大丈夫だよ」
そう言って彼は微笑んで、力強くうなずくけれど、私にはその優しさが重荷にしか感じられない。
その日のランチはとても楽しかったはずなのに、なぜか午後からの気分は最悪で、愛菜と一緒に誰かの悪口で大いに盛り上がりたいとか、ちょっぴり思ってしまった。
だけど今日の愛菜はいつもより熱心に職場のパソコンにしがみついていて、夜遅くになっても帰宅する様子はなかった。
彼女とのフレンド登録、毎日更新されていた日記も、最近は途絶えがちになっている。
いつも夜中に送られてきていた意味のない大量のメッセージのやりとりも、彼女がPP局に入局してからは、送られていなかった。
深く頭を下げるので、びっくりしてこっちも頭を下げる。
彼はにこやかに立ち上がると、引き取りにきた配膳ロボと一緒に出て行ってしまった。
七海ちゃんは、限りなく陶酔に近いため息を漏らす。
「あぁ~ん、やっぱり、なにしても格好いい~」
「普通の男の子じゃない。PP3000の文字に、惑わされてるだけだよ」
私が言ったら、七海ちゃんは急に怒り始めた。
「明穂さんにはね、彼のオーラってものを感じられないんですか?」
「オーラってなによ、目に見えないでしょ」
「目に見えないものほど、大事なんだって習わなかったんですか?」
「うん、習わないよね、普通」
「それだからダメなんです!」
さくらに助けを求めたら、さくらは困ったように笑った。
「さくらは感じる? 彼のオーラ」
「オーラかどうかは分からないけど、会うたびにこの人は、やっぱり普通じゃないな、とは思う」
会うたびって、そんな回数を会ってるとは思えなかったけど、さくらもそう感じているのならば、本当にそうなのかもしれない。
市山くんが、食後のコーヒーをいれた。
「ねぇ、そう言えばあの少年に私が元気ないって、誰が言ったの?」
「人事部とかじゃないんですかね、ほら、最近の明穂さん、PPずっと低迷気味だし」
七海ちゃんの言葉に、ちょっぴりムッとする。
「あぁ、そうかもね、彼はほら、なにせ天才だから、ありとあらゆる方面をカバーしてるし」
さくらの言葉に、市山くんも付け足した。
「そうでしょうね、きっと明穂さんを心配してたんですよ」
三人が声を揃えて笑うから、私は分かったような分からないような、変な気分になる。
「いくらなんでも、そんなことまで気にする?」
扉が開いて、外にランチに出ていた三人が帰ってきた。
休憩所のソファの回りに集まっている私たちを見て、芹奈さんはにっこりと微笑んだ。
「あら、今日はどうしたの? みんなで、ずいぶん楽しそうにしてたのね」
「笑い声が、外にまで聞こえてたぞ」
横田さんがネクタイを緩める。
愛菜は全く気にならない様子で、午後からの仕事の準備を始めていた。
「長島少年が来ていたんですよ」
市山くんの言葉に、愛菜の顔色が変わった。
「あらー、それで一緒にランチしてたの?」
芹奈さんは残りもののポテトをつまむ。
「よかったわね」
「すっごい、かっこよかったですぅ~!」
「だからそれは3000の文字に騙されてるだけで、中身は結構普通の男の子じゃない」
「ホント明穂さんって、分かってないですよねー」
「あぁ、俺の居ない時で俺が助かった」
横田さんは、また枯れ草モードに戻りつつあった。
「あんなのと一緒にメシを食ったって、食べた気にならん」
「あの人と張り合おうとするのが、間違ってると思いますけど」
私がそう言ったら、横田さんは完全にススキモードになった。
「お前は黙ってろ」
愛菜がケタケタと笑って、横田さんはパソコン画面に向かった。
あの枯れススキモードでも、PPが落ちるどころか、2500に近づきつつあることが理解出来ない。
愛菜は芹奈さんに声をかけ、仕事の続きを始めている。
三人は愛菜を真ん中にして背中を並べた。
もうすっかり、定着してしまった光景だ。
もうこの配置が変わることはないのかな。
学校の席替えみないなことを、想像してみる。
市山くんの手がぽんと私の肩にのって、彼は耳元でささやいた。
「大丈夫だよ」
そう言って彼は微笑んで、力強くうなずくけれど、私にはその優しさが重荷にしか感じられない。
その日のランチはとても楽しかったはずなのに、なぜか午後からの気分は最悪で、愛菜と一緒に誰かの悪口で大いに盛り上がりたいとか、ちょっぴり思ってしまった。
だけど今日の愛菜はいつもより熱心に職場のパソコンにしがみついていて、夜遅くになっても帰宅する様子はなかった。
彼女とのフレンド登録、毎日更新されていた日記も、最近は途絶えがちになっている。
いつも夜中に送られてきていた意味のない大量のメッセージのやりとりも、彼女がPP局に入局してからは、送られていなかった。