翌日、出勤してきた私が見たのは、最近ではすっかり枯れ草のようになっていた横田さんの、久しぶりにさっぱりとした姿だった。
もしかしたら髪を切ってきたのかもしれないけど、この人の髪型は少なくとも私が見るようになってから、判で押したように変わらないから、正直なところそう見えた原因はよく分からない。
芹奈さんも、いつものバッチリ出来る女のお仕事ファッションに、さらに磨きがかかっている感じだ。
化粧品がバージョンアップしているのかもしれない。
二人ともにこにこして上機嫌で、その間に挟まれた愛菜は、この二人以上に上機嫌だった。
「愛菜さんの歓迎会をあの三人だけで、今日のお昼にランチ会でするそうですよ」
市山くんが教えてくれた。
あぁ、だから今日は、ちょっといつもと違うんだ。
女嫌いを公言してはばからない横田さんが、全くもって紳士的に、愛菜と芹奈さんに接している。
「同じ部署に配属されるって、やっぱりマッチングの魔法なんだね」
彼が元気にしているのなら、それは正解なのだ。
三人で並ぶ背中が生き生きとして見えるのは、それで正解だからなんだ。
「気にすることないよ!」
さくらは言った。
「うちらはうちらで、今日はみんなで一緒にご飯食べよう!」
そう言われれば、最近はみんなで集まってお昼を食べてなかったな。
愛菜が来る前は、私はこの場所で誰かと一緒に食べていたのに。
それで時々は、ここのみんなで一緒に食べることもあったのに。
私がうなずくと、みんながほっとした顔になった。
お昼の時間がきて、三人がオフィスを出て行く。
完全に扉が閉まったのを確認してから、私たちもランチの準備に入った。
市山くんが熱いお茶をいれてくれて、七海ちゃんがソファとテーブルの位置を移動させた。
さくらは休憩スペースの回りを片付けている。
私は部署で用意されている、専用のランチョンマットを広げた。
社食に注文したピクニックランチが、アシスタントロボによって運ばれてくる。
その時、ロボットの後ろから現れたのは、他でもない長島少年だった。
「なんだか楽しそうだったので、僕もご一緒してもよろしいですか?」
七海ちゃんは目を輝かせて喜んだ。
市山くんは彼のためのお茶を用意して、少年は私の隣に、さくらと挟まれて座った。
「わぁ、こうやって食べるお昼も、たまにはいいものですね」
テーブルに並んだパーティーメニュー。
彼は自分で取り皿に唐揚げを一つつまむと、それを口に入れた。
「おいしい」
「僕、次のファンクラブサイトのトップ記事、ヘッドラインの文字が予想出来ました」
「なんですか?」
市山くんの言葉に、彼は首をかしげる。
「唐揚げが好き!」
「決まりですね」
七海ちゃんが、スマホを高速タップしている。
「ちょっと、やめなさいよ」
さくらが注意すると、少年は笑った。
「唐揚げは、好きですよ」
七海ちゃんと市山くんは、長島少年に興味津々の質問攻めで、彼はそれににこやかに対応しているけれども、聞いているさくらの方はドキドキで、彼を必死にフォローしている。
『そんなこと聞くもんじゃないでしょ』とか言って。
私はそんなやりとりを隣で聞いているだけで楽しくて、おかげでいつもはあまり好きではない卵のサンドウィッチが、とてもおいしく感じる。
「ところで明穂さんは、最近少し元気がないようですが」
「えぇ、さくらにも言われちゃって。でも昨日はごちそうになりました。ね、さくら」
私がさくらをのぞき込むと、さくらはちょっと恥ずかしげに顔を赤らめて「そうね」と小さく答えた。
「それならよかったです。いつも元気なあなたが、すこし落ち込んでいるようだと聞いたので」
「とんでもないです! 私なら大丈夫ですよ、ホントに」
慌てて否定すると、彼は心配したようにそっと笑った。
「あなたが、無事で健やかにいて下さることが、僕たちにとっての支えになります。あなたがここに来たこと、それをご自分で選択なさったことを、もっと誇りに思っていて下さい」
「はい」
どうして彼みたいな人からそんな風な言葉をかけられるのか、私には相変わらず意味不明だけど、誰かから大切に思われていると感じられるのは、ありがたいことだった。
「そうするように、努めます」
彼はまた少し笑った。
もしかしたら髪を切ってきたのかもしれないけど、この人の髪型は少なくとも私が見るようになってから、判で押したように変わらないから、正直なところそう見えた原因はよく分からない。
芹奈さんも、いつものバッチリ出来る女のお仕事ファッションに、さらに磨きがかかっている感じだ。
化粧品がバージョンアップしているのかもしれない。
二人ともにこにこして上機嫌で、その間に挟まれた愛菜は、この二人以上に上機嫌だった。
「愛菜さんの歓迎会をあの三人だけで、今日のお昼にランチ会でするそうですよ」
市山くんが教えてくれた。
あぁ、だから今日は、ちょっといつもと違うんだ。
女嫌いを公言してはばからない横田さんが、全くもって紳士的に、愛菜と芹奈さんに接している。
「同じ部署に配属されるって、やっぱりマッチングの魔法なんだね」
彼が元気にしているのなら、それは正解なのだ。
三人で並ぶ背中が生き生きとして見えるのは、それで正解だからなんだ。
「気にすることないよ!」
さくらは言った。
「うちらはうちらで、今日はみんなで一緒にご飯食べよう!」
そう言われれば、最近はみんなで集まってお昼を食べてなかったな。
愛菜が来る前は、私はこの場所で誰かと一緒に食べていたのに。
それで時々は、ここのみんなで一緒に食べることもあったのに。
私がうなずくと、みんながほっとした顔になった。
お昼の時間がきて、三人がオフィスを出て行く。
完全に扉が閉まったのを確認してから、私たちもランチの準備に入った。
市山くんが熱いお茶をいれてくれて、七海ちゃんがソファとテーブルの位置を移動させた。
さくらは休憩スペースの回りを片付けている。
私は部署で用意されている、専用のランチョンマットを広げた。
社食に注文したピクニックランチが、アシスタントロボによって運ばれてくる。
その時、ロボットの後ろから現れたのは、他でもない長島少年だった。
「なんだか楽しそうだったので、僕もご一緒してもよろしいですか?」
七海ちゃんは目を輝かせて喜んだ。
市山くんは彼のためのお茶を用意して、少年は私の隣に、さくらと挟まれて座った。
「わぁ、こうやって食べるお昼も、たまにはいいものですね」
テーブルに並んだパーティーメニュー。
彼は自分で取り皿に唐揚げを一つつまむと、それを口に入れた。
「おいしい」
「僕、次のファンクラブサイトのトップ記事、ヘッドラインの文字が予想出来ました」
「なんですか?」
市山くんの言葉に、彼は首をかしげる。
「唐揚げが好き!」
「決まりですね」
七海ちゃんが、スマホを高速タップしている。
「ちょっと、やめなさいよ」
さくらが注意すると、少年は笑った。
「唐揚げは、好きですよ」
七海ちゃんと市山くんは、長島少年に興味津々の質問攻めで、彼はそれににこやかに対応しているけれども、聞いているさくらの方はドキドキで、彼を必死にフォローしている。
『そんなこと聞くもんじゃないでしょ』とか言って。
私はそんなやりとりを隣で聞いているだけで楽しくて、おかげでいつもはあまり好きではない卵のサンドウィッチが、とてもおいしく感じる。
「ところで明穂さんは、最近少し元気がないようですが」
「えぇ、さくらにも言われちゃって。でも昨日はごちそうになりました。ね、さくら」
私がさくらをのぞき込むと、さくらはちょっと恥ずかしげに顔を赤らめて「そうね」と小さく答えた。
「それならよかったです。いつも元気なあなたが、すこし落ち込んでいるようだと聞いたので」
「とんでもないです! 私なら大丈夫ですよ、ホントに」
慌てて否定すると、彼は心配したようにそっと笑った。
「あなたが、無事で健やかにいて下さることが、僕たちにとっての支えになります。あなたがここに来たこと、それをご自分で選択なさったことを、もっと誇りに思っていて下さい」
「はい」
どうして彼みたいな人からそんな風な言葉をかけられるのか、私には相変わらず意味不明だけど、誰かから大切に思われていると感じられるのは、ありがたいことだった。
「そうするように、努めます」
彼はまた少し笑った。