お昼の時間になって、今日は愛菜の方から私をランチに誘ってきた。

彼女はまた手作り弁当持参で、私は社屋の屋上に本日のランチボックスを、アシスタントロボットに運んでもらう。

私にはどうしても、愛菜に言っておきたいことがあった。

「芹奈さんと七海ちゃんのこと、あんまり気にしなくていいよ」

「どういうこと?」

「あの二人、結構ズルい方法で、PP維持してるからさ」

「AI任せ?」

「そう」

愛菜は広げただけのお弁当を、じっと眺めている。

「実は、私もしょっちゅう言われるんだー。もっとPP維持を気にしろって」

愛菜は私が話していても、じっとしたまま動かなかった。

「私はほら、1800の維持とか、難しいタイプだから。だからって、なんとなくAI任せも嫌だし」

彼女の手作り弁当は、膝の上で初期の完璧な形を保ったまま、保存されている。

「まぁ、AIに任せてたって、2000越えを維持するには、もちろんそれだけじゃダメだし、芹奈さん自身がそれにふさわしい……」

「この局に、PP3000の人がいるって聞いたけど、本当なの?」

今の彼女に、この話題は興味を引かなかったらしい。

「うん、いるよ」

私は口の中の、しいたけを飲み込む。

PP3000以上なんて、この世に何人いるのか分からないようなシロモノだ。

彼女が気になるのも仕方がない。

「会いたい」

「そのへんにいると思うけど」

彼女は自分のタブレットを取り出した。

「なんでファンクラブの会員、入会希望者の募集が終了してるの? 昨日から、どれだけハッキングして中を覗こうと思っても、全然入れないのよ」

彼女は一通りタッチパネルを操作してから、あきらめたように端末を脇に置いた。

「うちの部署で会員になってるの、七海ちゃんだけじゃない。なんで明穂は入らなかったのよ」

「別に興味ないし」

私はまた一人で、ご飯を食べている。

「なんか、『そういうの、ありがたいけど困ります』って、言われたらしいよ。だけどファンクラブが集団交渉を起こして、会の存続は認められたけど、非公開にして、新規入会は認めないって約束になったって、七海ちゃんが言ってた」

「なによそれ」

「さぁ」

愛菜の手作り弁当は、今日も綺麗でかわいかったけど、やっぱり箸はつけてもらえないんだな。

私は、それよりも確実にボリュームのある社食製ランチを、しっかり食べている。

「明穂は、見たことあるの?」

「あるよ」

「どこにいるの、連れてって」

「えー、局長の部屋にいるんじゃないかなぁ」

その言葉に、愛菜は急いで弁当を片付け始めた。

まだ一口も食べてないのにな。

私はふきの煮物を箸でつまんで、口に入れた。

「行くの?」

ふきの煮物は、お出汁をたっぷり含んでいて、噛むとじゅわっと溢れ出るまろやかさ。

とてもロボット作とは思えない。

「お願いしたいことがあるの」

「愛菜は、アグレッシブだねぇ」

高野豆腐の出来だって完璧。

「じゃ、後でね」

愛菜は屋上をさっさと下りていってしまった。

私は初夏の風に吹かれながら、おいしいお弁当を一人で食べる。

一人で食べても、計算された味は、変わりようがないのだ。

いつだって美味しく仕上がっている。

そんなことをぐるぐる考えながら、固くはないはずの人参を、ゴクリと飲み込んだ。