翌日の愛菜は昨日とはうって変わって、カジュアルな、でも清楚で好感度の高い、理想的なお仕事ファッションに身を包んでいた。

「おはよう、明穂、今日もかわいいね」

愛菜は出勤二日目とは思えないほど、部署になじみまくっていた。

コーヒーの置き場所もお菓子の補充も、アシスタントロボ任せではなく彼女自身がやっている。

一日でその場所を把握したのだ。

「おっはようございまーす!」

一番最後に出勤してきた七海ちゃんが、元気よく現れた。

そんな彼女に、愛菜はにっこりと笑顔を向ける。

七海ちゃんの笑顔が、一瞬にしてムッとなった。

「七海ちゃん、おはよう」

愛菜の気軽な挨拶も、彼女は無視して通り過ぎた。

そんな七海ちゃんに全く気兼ねすることなく、愛菜はスマホのレンズを向ける。

七海のPP1789。

愛菜は笑った。

「あら、七海ちゃん、芹奈さんから教えてもらった、PPアップの秘訣、それを参考にして、初めて1800越えたって、前に喜んでなかったっけ?」

「私の日記、勝手に読まないで下さい」

「ネットで世界中に公開してるのに?」

愛菜は七海にすり寄る。

「実は、私もここに入る前に、すっごい努力して、初めて1800を越えたばかりだったの、だから、もの凄く親近感が湧いちゃって、それで、私も一緒にやれればいいなーって……」

彼女は、自分のスマホを操作した。

その画面に、彼女の顔がこわばる。

七海ちゃんはそれを見て、冷ややかな態度で愛菜に応じた。

「だからなによ」

何かを言いかけていた愛菜は、それを途中でやめた。

今度は七海ちゃんがスマホを取り出すと、愛菜に向ける。

「大体、そんなふうに他人のPPを見ることが失礼なんだって、そういうPPリテラシーは……」

カシャリと音がして、愛菜のPPが測定された。

愛菜のPP1795。

七海ちゃんは、遠慮なくプッと吹き出す。

「あなたよりは高いわ!」

愛菜は、完全に動揺していた。

「それがなによ、PPに多少の上下があることは、当たり前じゃない」

「昨日はちゃんと1800を越えてたのよ!」

愛菜は自分のPPの変動履歴を見せる。

七海ちゃんは、それを笑い飛ばした。

「あははー、はいはい越えてた越えてたー! 昨日はねー」

七海はけらけら笑っている。

愛菜はぐっと拳を握りしめた。

「私も始めたから、芹奈さんの行動指示リスト」

「へーそうなんですか? でもそれ、私と明穂さん専用だったんですよねー」

「なんですって?」

「だから、いくらあんたが内緒で進めようったって、そうはいかないわよ」

七海ちゃんは、くるりと愛菜に背を向けた。

「二人の専用って、どういうこと」

「どうしてあなたがそれを?」

芹奈さんの言葉に、部屋中が静まり返る。

愛菜は縮こまった。

「すみません。昨日、明穂に教えてもらったんです。いけなかったですか?」

「いいえ、特に問題はないわ」

「私も、芹奈さんみたいに、PPを上げたいです」

芹奈さんは、愛菜を見下ろした。

「私が明穂ちゃんに教えてあげたのは、別に七海ちゃんと二人だけのためってわけではないの。あなたにも、充分効果はあると思うわ」

「本当ですか?」

「えぇ」

芹奈さんはそう言うと、自分の席につく。

「明穂ちゃんも、ちゃんとすればいいのに。そうしたら私や七海ちゃんみたいに、PPが上がるわよ」

愛菜は、ほっとしたように胸をなで下ろす。

またこの話しだ。

どうして終わった話を、今さら蒸し返すんだろう。

「私は、私なりの方法で上げるし、維持するから……、大丈夫です」

そこにいた、みんなの視線が集まってくる。

すごく嫌な気分。

居心地が非常に悪い。

私はそんな気分を振り払うようにデスクに座ると、すぐに仕事を始めた。