「愛菜ちゃんが、日記を更新したよ」

「愛菜ちゃんが、日記を更新したよ」

「愛菜ちゃんが、日記を更新したよ」

ミュートしていたはずの設定が、またいつの間にか勝手に解除されている。

「愛菜ちゃんから、メッセージが届いたよ」

「愛菜ちゃんから、メッセージが届いたよ」

きっとこの通知は、私がメッセージを確認しないことには鳴り止まないのだろう。

帰宅してわずか一時間足らず。

彼女の家もこの近くではあったから、帰宅してすぐに日記を更新しているということだ。

彼女をブロック出来ないということは、彼女の存在を受け入れなければ、彼女から逃れられないということでもある。

たけるからの音声に急かされて、仕方なく彼女と二人だけで開設したページを開く。

二人で行った遊園地の画像が、二人で写っている写真と共に並ぶ。

一般にも公開されているそれには、二人以外の他者からの同じような画像が挟まれていて、この画面の世界だけが本物の遊園地のようだ。

彼女はやっぱり、笑っていた。

「愛菜ちゃんからのメッセージが届いたよ。今日は楽しかったね!」

「そうだね、たける」

その大きく笑う彼女の画像に、私は応じなければならない。

「とても楽しかった……と、返事をしておいて」

「そうだね明穂、とても楽しかった、と、返事をしたよ」

覗いた日記と、上げられた二人の画像。

その笑顔に、感情計測アプリを重ねてみる。

愛菜の笑顔は、うれしさ70%。

そうか、彼女は感情を表情に出しにくいだけで、きっとそれなりに楽しんでいたんだな。

もしかしたら私の方が、空気を読めなかったのかもしれない。

妙に疲れた体を引きずって、お風呂へ向かう。

仕事、と言われれば、彼女とのつきあいは仕事で、だけどプライベートと言えば、かなりのプライベートだった。

髪をドライヤーできちんと乾かしてから、眠りについた。

それからも愛菜のメッセージ攻撃は、連日鳴り止むことはなかった。

自分の働くケーキ屋さんの画像をのべつまくなし送りつけ、ネットに上げると同時に閲覧した証を私に求め続けた。

「こういうのって、普通にすることなんですかね」

市山くんがそう言うと、さくらはため息をついた。

「まぁ、本当に仲のいい友達同士で、十代とかなら、ありえないことも、ない、けどね、女子なら」

画面に並ぶ笑顔の彼女は、とても幸せで楽しそう。

気がつけば彼女のPPは、いつの間にか1400代となり、私は1600代をキープしている。

「よかったのよ。だって、すごく楽しかったんだもん。私も愛菜も!」

それでよかったのだと、PPとこの画像が証明している。

だから私は、それを信じるしかない。

「ま、何とも言い難いけど」

「いいんじゃないですか? お友達が増えて」

苦笑いのさくらの横で、七海ちゃんだけが楽しそうだ。

「とにかく明穂さんは、彼女としっかりお友達になってくださいね!」

PP3000の彼が、七海ちゃんに何かを言ったらしい。

その詳細は分からないけれども、そのおかげで彼女は私と愛菜の仲を、むちゃくちゃ応援してくれている。

「ドリームランドで、人気のスイーツを食べてきたの」

「見ましたよ! 特集サイトに載ってたやつですよね」

七海ちゃんの興味を引くのは、私でもスイーツでもなく、その向こうにいる透明な少年の影なのは、知ってる。

「しっかりあの子を繋ぎ止めておいてくださいね、明穂さんの役割はそこですから!」

「七海ちゃん!」

さくらに強く言われて七海は肩をすくめると、自分のデスクに座った。

私は自分だけが遊んでいるようで、申し訳なく感じているのにな。

七海ちゃは今、長島少年に夢中だ。

だまり込んだ私を見て、さくらはそっと声をかけてくれた。

「人気のスイーツ、おいしかった?」

彼女はちゃんと、私が本当に聞いて欲しいことを聞いてくれる。

「うん、美味しかったよ」

「そう、よかったわね」

さくらが笑ってくれると、私もうれしい。

私は開いたスマホの画面から、愛菜への返信を打ち始めた。