「だって、たけるは……、たけるは……」

「あぁ、もう! はいはい、すいませんでした、もうやめますよ。このままだと、私が悪者になっちゃいますもんね」

ピーという機械音がして、たけるの目が青く光った。

「デフラグが、終了いたしました」

「おかえり、たける!」

「そうだね明穂、ただいま!」

いつもと変わらぬ元気な声。

この声に、救いを求めてはいけないっていうの? 

私にとってたけるは、自分の弟のような存在なのに!

「私は、私なりの方法でPPを上げるから結構です! 七海ちゃんは七海ちゃんで、勝手にやって下さい!」

「あたしは、明穂さんのためを思って言ってるんですよ?」

たけるを抱きしめる。

なにも聞きたくないし、考えたくもない。

私のためとか、そんなの嘘すぎる!

「まぁまぁ、明穂もここまでくるのに、結構な時間がかかってるから、急にっていわれても……ね」

さくらがようやく、助け船を出してくれた。

「だけど明穂も、もう少し成長があってもいいと思う」

さくらは、言いにくそうに言葉を繋ぐ。

さくらまで、そんな風に思っていたなんて!

「でっすよねー!」

七海ちゃんが言った。

芹奈さんもうなずく。

ひどい、ひどい、ひどい、ひど……。

「やぁやぁ、みんな揃っているかい?」

入って来たのは、お人好し局長。

どんなタイミングで入って来てるのよ! 

しかし、そんなタイミングの悪い局長の背後に、私は目を奪われた。

他のみんなも、同じところが気になっている。

局長のその後ろには、見知らぬ少年……。

「保坂くんの提案してくれた直訴状が、上に届いたみたいでね、設備強化のための視察に、来てくれることになったんだよ!」

その少年は、本当に透き通るくらい真っ白で、生まれつき色素がなかったんじゃないかと思うくらい透明で、青い目をした幽霊のような少年だった。

「彼は、長島健一くん。公安の電子犯罪部門の特別顧問を務めている、保健衛生監視局の方だよ」

長島健一、十七歳、独身、男性。

右足に、一目でそうと分かる義足をつけている。

悪い足をそのまま残して、服の外から装着し、歩行を補助するタイプのやつだ。

右手には白杖。

視覚にも、問題があるのかな。

だけど、そんな素振りは全く見えない。

PP3156。

「今、各部署を挨拶回りで訪問していてね、保全強化のために、それぞれに必要な経費を計上して、設備投資の提案をしてくれることになっているから、これからいろんな所で見かけるかもしれないけど、びっくりしないでね」

局長からの紹介に、彼はにっこりと微笑んだ。

「よろしくお願いします」

彼はそこにいた一人一人に、握手の手を差し伸べる。

順番に手を握って、私の所へもやって来た。

「あなたが、保坂明穂さん?」

「はい、そうです」

彼の手はひんやりと冷たくて、普通の人より、体温が五度くらい低いみたいだ。

「そう、よろしくお願いします」

局長に連れられて次の部署に移動して行くまでの間、彼が口を開いたのは、それだけだった。

扉がしまり、部屋に張り詰めていた緊張が一気に解ける。

さくらが一番に沈黙を破った。

「あーびっくりした!」

「私、PP3000越えてる人、初めて見ました-!!」

七海ちゃんは興奮している。

「さすが公安部、そして十七歳、オーラがハンパないっすね」

市山くんの言葉に、芹奈さんが首をかしげる。

「公安部なのに、保健衛生監視局って、結局どこの所属なのか、分かんないじゃない」

「え~、十七歳かぁ~、五つ年下なら、私もまだ守備範囲に入ってますよねー!」

七海ちゃんは、早速パソコンで何かを検索し始めた。

「とにかく、一般人ではないことは確かだな」

さすがの横田さんも、大人しく頭を掻いている。

私は突然現れた透明な彼によって、自分の話題が逸れたことにほっとしていた。

PP3000? 

ありえない数字だ。

人は人、自分は自分。

私は私として、自分自身で生きて行く。

それだけの話しだ。