予定されていた運動プログラムが終了して、休憩のためのスペースに入る。

まだ少し荒い息を整えながら、空いていた椅子を見つけて、そこに座った。

柔らかな光が差し込むゆったりとしたスペースには、たくさんの利用者がのんびりとくつろいでいた。

アシスタントロボットが、近づいてくる。

「お飲み物を用意しました」

「私の荷物から、AI執事を連れてきて」

「かしこまりました」

トレーから飲み物を受け取ると、ロボットは静かに滑り出す。

すぐにピンクうさぎのたけるを連れてきてくれた。

私はほっとして、たけるを抱きしめる。

一人が怖い。

知らない人がたくさんいるところと、慣れない場所は苦手。

たけるがいてくれれば、それだけで少し安心できる。

一呼吸して落ち着いてから、それからやっと、出された飲み物に口をつけた。

「こんにちは」

目の前に、突然男の人が現れた。

知らない人。

ここの利用者だ。

たけるのAI管理機能を、すぐにマックス最大限作動させる。

「たける、ちゃんと起きて」

それがたけるへの私からの救援モードへの切り替え合図。

「そうだね明穂、僕はもう大丈夫だよ、ちゃんと生きてるよ」

「それが君専用のタブレット?」

その人はにっこりと笑って、勝手に私の前の席に座った。

「かわいいね、ピンクのうさぎのぬいぐるみ」

施設の貸し出しウェアを着ている。

歳は同じくらい。

ここは職場じゃないから、いつものように、詳細なPPを勝手に盗み見することができない。

「名前は?」

そう言って、彼はスマホを取り出した。

私の方にカメラを向けると、相手には私の情報が瞬時に伝わる。

「明穂ちゃんか、PP1630ね、俺のも同じくらいだよ」

彼はそう言って、今度は自分のプロフィール画面を見せてくれようとしたけど、私はたけるの背中のファスナーから専用タブレットを取り出して、彼の情報を見た。

自分で詳細な分析画面をカスタマイズしたタブレットだ。

竹島尚人、二十七歳、独身男性、PP1215。

ごくごく一般的かつ基礎的な公開情報。

これ以上の内容は、お互いにフレンド登録しないと公開の範囲が広がらない。

私とのマッチング結果、相性56%。

「すいません、私、相性70%以上の人としか、話さないようにしているので」

「そうなの? 俺は、50%以上の相手が近くにいたら、通知が来るようにしてるんだ」

にこにこしてるけど、PPが同じくらいというのも嘘だし、相性50%以上で通知が来るというのも嘘。

なぜなら、私の方が70%以上の人間以外は、アクセスブロックしているからだ。

「チートツールですか?」

「違うよ、それって違法だろ? 俺はそんな悪いことしてないし、もしそうだとしても、こんなところで堂々と言えるわけないだろ、そんなこと」

こういう人間には、なんて言ったらいいのか分からない。

適当に見かけの好みだけで話しかけてくるタイプだ。

PPの存在なんて、完全無視。

どれだけPPが進化しても、生身の人間の、個人の口から発する言葉までは制御できない。

つまり、『嘘』はいくらでもつけるのだ。