数日後、内閣府役人の高橋氏から連絡があって、俺と文科省役人の宮下と一緒に呼び出された。
待ち合わせ場所は、東京市ヶ谷、防衛省本部前。
正門の目の前にあるビルの影に身を潜めて、様子をうかがう。
マジか。
「あの、なにやってるんですか?」
「シーッ! 声がでかい!」
物陰からのぞき込む高橋氏の背中を見下ろす。
彼はあくまで真剣だった。
「言っただろう、ここは官庁街の常識が通じない、極々特殊な機関だ」
「難攻不落の要塞ですよね」
宮下は、とにかく高橋氏の言うことなら、なんでも従う。
誰よりも早くやって来て、彼のために飲み物まで用意していた。
そういうところに、抜かりはない。
しかし、防衛省はデカい、とにかくデカい。
正門前に立ち並ぶバリケードと警備員の数、そよぐ植え込みの木々が、この先の困難をあざ笑うかのようだ。
「あの、まさか忍び込もうっていうワケじゃないですよね」
「お前は気でも狂ってるのか?」
高橋氏は、信じられないといった体で、信じられないような顔を、俺に向ける。
「そんなことをしてみろ、一族郎党、皆殺しだ」
ため息が出る。で、どうするつもりだ。
てゆーか、さっきからずっと、防衛省の警備員に睨まれてるような気もする。
絶対バレてるよな。
「やはりここは、人脈を辿るのが、常套手段ではないでしょうか!」
文科省宮下が、上官高橋氏に進言する。
「ツテは、最大の武器でございます!」
「おぉ、そうだったな」
彼はスマホを取り出すと、電話帳をスライドさせ始めた。
「しかし、防衛省幹部となると、防衛大学校出身者でないと、話しにならないな」
「さすがに、僕は防衛大の出身ではありません。すいません」
宮下も、スマホの電話帳を探る。
どうも、この二人に防大出身者の知り合いはいないらしい。
俺だっていねーよ。
仕方なく、俺もスマホを取りだして、友達を探すフリをする。
「だけど、防大出身者だけが防衛省に入ってるわけじゃないですよね」
俺がそう言うと、高橋氏が答えた。
「それはそうだが、かと言って、自衛隊の関係者で知り合いもいないし……」
「基本、警察官と同様、あんまり自分の職業を積極的に言いたがりませんよね、彼らって」
宮下の言葉に、ふと俺の手が止まった。
「そうだ、別に大学じゃなくても、高校の同級生とか、知り合いで防衛省関係って、いないのかな」
「それだ!」
高橋氏のテンションが跳ね上がった。
「俺は泣く子も黙る超有名男子校K高の出身だ。そこの同窓生の知り合いなら、知り合いの知り合いで防衛省関係の人間がいるかもしれない」
「さすがです、高橋さん!」
残念なお知らせだが、この世はやっぱり学歴社会で出来ている。
賢い人が賢い大学に入り、賢い人達とお友達になって、お友達同士で世界を回している。
知らない人より知ってる人。
全く知らない他人同士で、信頼関係を築くのは、非常に難しい。
俺は中卒で会社を立ち上げ、億を稼いでるって?
すばらしい。
そういう人は、並の人間ではないので、また別の才能をお持ちの方々だ。
ツテというのは別に有名大学出身でなくても、結局は地元の高校や、大学出身者で同人会があるってゆう、アレだ。
会話の糸口として、入りやすい。
そんなものに関係なく、仕事も生活も、何の不自由もなく生きてるって?
それならそれで、とても幸せな人だと思う。すばらしい。
俺だって、本当はそれが本来あるべき姿だと思うよ。
だけどさ、出身の学校や地元が一緒って聞くと、それだけでちょっとうれしくなっちゃうもんだろ?
どんなに嫌いな奴でもさ、人間って、やっぱそういうもんだと思うんだよね。
この俺でも、自分と似たような共通点のある人に、親近感を覚えるのは、不可抗力だ。
自分の好きなアーティストやスポーツチーム、漫画アニメのキャラが、同じように好きな奴に、悪い奴はいない! って、つい言っちゃうだろ?
よくよく考えてみれば、そんなことは全く関係ないんだけど、そのアーティストやチーム、キャラ名が、出身校の名前に置き換えられただけだ。
『採用昇任等基本方針に基づく任用の状況』というものがあり、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第54条第1項に、その規定がある。
平成24年度の資料だが、多様な人材を確保しているということをアピールするために、採用候補者名簿による採用の状況が公開されていて、
それによると、平成24年度の採用者の多かった大学・学部等出身者の採用者全体に占める割合は、やっぱり東大が一位。
毎年毎年、問答無用のナンバーワンだ。
彼らにとって、多様な人材の採用とは、東大内での話しらしい。
まぁ、こんなことを言っても、勉強して総合職試験に受かれば問題ない話しなのだが。
俺みたいに。
しかし、これ見よがしに出身大学限定の身内ネタあるあるなんかで盛り上がられると、イヤミにしか聞こえないな。
これも、僻みってやつか。東大万歳、学歴万歳だ。
庶民は庶民らしくあるべしとは、どっかのエライさんのお言葉。
知らんけど。
そういう意味では、官僚なんかよりも、政治家の方が、バラエティに富んでいる。
元アイドルとかね。
と、いうわけで、例外なく東大出身の高橋氏は、その他組の俺や宮下さんと違って、知り合いやツテが多い。
すばらしい。
「よし! 俺の剣道部の後輩の先輩の知り合いで、財務省にお勤めのお友達が海上保安庁にいて、その親戚の奥さんのお友達の先輩にあたる人が、防衛省の一般職、事務官に、高校の部活の先輩の後輩としているらしい!」
「それのどの辺りが、知り合いって言えるんですか!」
「さすがです、高橋さん! やっぱり東大出身者って、凄いですよね~!」
高橋氏は、得意げに胸を張った。
「まぁな、これが実力ってもんだ」
「さすがです! やっぱり偉い人って、違うなぁ~」
宮下氏は、恐れ入ったように頭をぽりぽり掻いてる。
「さっそく連絡を取った。さすがに俺たちが防衛省の中に入るのは、簡単にはいかな
いらしいが、昼休みに出てきてくれるらしい」
「今流行の、ランチミーティングってやつですね! さっすが、かっこいいです!
俺、そういうのにずっと憧れてました!」
宮下さんは、すかさずこの近辺での空いているランチの店を予約して確保した。
すばらしい。
要するに、会えればいいんだ、俺としては。
なんだっていいし。
大事なのは、そこだ。
待ち合わせ場所は、東京市ヶ谷、防衛省本部前。
正門の目の前にあるビルの影に身を潜めて、様子をうかがう。
マジか。
「あの、なにやってるんですか?」
「シーッ! 声がでかい!」
物陰からのぞき込む高橋氏の背中を見下ろす。
彼はあくまで真剣だった。
「言っただろう、ここは官庁街の常識が通じない、極々特殊な機関だ」
「難攻不落の要塞ですよね」
宮下は、とにかく高橋氏の言うことなら、なんでも従う。
誰よりも早くやって来て、彼のために飲み物まで用意していた。
そういうところに、抜かりはない。
しかし、防衛省はデカい、とにかくデカい。
正門前に立ち並ぶバリケードと警備員の数、そよぐ植え込みの木々が、この先の困難をあざ笑うかのようだ。
「あの、まさか忍び込もうっていうワケじゃないですよね」
「お前は気でも狂ってるのか?」
高橋氏は、信じられないといった体で、信じられないような顔を、俺に向ける。
「そんなことをしてみろ、一族郎党、皆殺しだ」
ため息が出る。で、どうするつもりだ。
てゆーか、さっきからずっと、防衛省の警備員に睨まれてるような気もする。
絶対バレてるよな。
「やはりここは、人脈を辿るのが、常套手段ではないでしょうか!」
文科省宮下が、上官高橋氏に進言する。
「ツテは、最大の武器でございます!」
「おぉ、そうだったな」
彼はスマホを取り出すと、電話帳をスライドさせ始めた。
「しかし、防衛省幹部となると、防衛大学校出身者でないと、話しにならないな」
「さすがに、僕は防衛大の出身ではありません。すいません」
宮下も、スマホの電話帳を探る。
どうも、この二人に防大出身者の知り合いはいないらしい。
俺だっていねーよ。
仕方なく、俺もスマホを取りだして、友達を探すフリをする。
「だけど、防大出身者だけが防衛省に入ってるわけじゃないですよね」
俺がそう言うと、高橋氏が答えた。
「それはそうだが、かと言って、自衛隊の関係者で知り合いもいないし……」
「基本、警察官と同様、あんまり自分の職業を積極的に言いたがりませんよね、彼らって」
宮下の言葉に、ふと俺の手が止まった。
「そうだ、別に大学じゃなくても、高校の同級生とか、知り合いで防衛省関係って、いないのかな」
「それだ!」
高橋氏のテンションが跳ね上がった。
「俺は泣く子も黙る超有名男子校K高の出身だ。そこの同窓生の知り合いなら、知り合いの知り合いで防衛省関係の人間がいるかもしれない」
「さすがです、高橋さん!」
残念なお知らせだが、この世はやっぱり学歴社会で出来ている。
賢い人が賢い大学に入り、賢い人達とお友達になって、お友達同士で世界を回している。
知らない人より知ってる人。
全く知らない他人同士で、信頼関係を築くのは、非常に難しい。
俺は中卒で会社を立ち上げ、億を稼いでるって?
すばらしい。
そういう人は、並の人間ではないので、また別の才能をお持ちの方々だ。
ツテというのは別に有名大学出身でなくても、結局は地元の高校や、大学出身者で同人会があるってゆう、アレだ。
会話の糸口として、入りやすい。
そんなものに関係なく、仕事も生活も、何の不自由もなく生きてるって?
それならそれで、とても幸せな人だと思う。すばらしい。
俺だって、本当はそれが本来あるべき姿だと思うよ。
だけどさ、出身の学校や地元が一緒って聞くと、それだけでちょっとうれしくなっちゃうもんだろ?
どんなに嫌いな奴でもさ、人間って、やっぱそういうもんだと思うんだよね。
この俺でも、自分と似たような共通点のある人に、親近感を覚えるのは、不可抗力だ。
自分の好きなアーティストやスポーツチーム、漫画アニメのキャラが、同じように好きな奴に、悪い奴はいない! って、つい言っちゃうだろ?
よくよく考えてみれば、そんなことは全く関係ないんだけど、そのアーティストやチーム、キャラ名が、出身校の名前に置き換えられただけだ。
『採用昇任等基本方針に基づく任用の状況』というものがあり、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第54条第1項に、その規定がある。
平成24年度の資料だが、多様な人材を確保しているということをアピールするために、採用候補者名簿による採用の状況が公開されていて、
それによると、平成24年度の採用者の多かった大学・学部等出身者の採用者全体に占める割合は、やっぱり東大が一位。
毎年毎年、問答無用のナンバーワンだ。
彼らにとって、多様な人材の採用とは、東大内での話しらしい。
まぁ、こんなことを言っても、勉強して総合職試験に受かれば問題ない話しなのだが。
俺みたいに。
しかし、これ見よがしに出身大学限定の身内ネタあるあるなんかで盛り上がられると、イヤミにしか聞こえないな。
これも、僻みってやつか。東大万歳、学歴万歳だ。
庶民は庶民らしくあるべしとは、どっかのエライさんのお言葉。
知らんけど。
そういう意味では、官僚なんかよりも、政治家の方が、バラエティに富んでいる。
元アイドルとかね。
と、いうわけで、例外なく東大出身の高橋氏は、その他組の俺や宮下さんと違って、知り合いやツテが多い。
すばらしい。
「よし! 俺の剣道部の後輩の先輩の知り合いで、財務省にお勤めのお友達が海上保安庁にいて、その親戚の奥さんのお友達の先輩にあたる人が、防衛省の一般職、事務官に、高校の部活の先輩の後輩としているらしい!」
「それのどの辺りが、知り合いって言えるんですか!」
「さすがです、高橋さん! やっぱり東大出身者って、凄いですよね~!」
高橋氏は、得意げに胸を張った。
「まぁな、これが実力ってもんだ」
「さすがです! やっぱり偉い人って、違うなぁ~」
宮下氏は、恐れ入ったように頭をぽりぽり掻いてる。
「さっそく連絡を取った。さすがに俺たちが防衛省の中に入るのは、簡単にはいかな
いらしいが、昼休みに出てきてくれるらしい」
「今流行の、ランチミーティングってやつですね! さっすが、かっこいいです!
俺、そういうのにずっと憧れてました!」
宮下さんは、すかさずこの近辺での空いているランチの店を予約して確保した。
すばらしい。
要するに、会えればいいんだ、俺としては。
なんだっていいし。
大事なのは、そこだ。